先週の後半、いつも通りに朝9時に診察室に行ったら、机には赤いテープが付いた小箱が置いてあった。ボクは箱を手に取り、あれ、何かな、と思ったが、すぐに分かった。バレンタイン・デーの義理チョコであった。そんなボクを数人のナースが見ていた。ボクはどう反応すべきか、とまどった。去年ももらったかもしれないが、はっきり覚えているわけじゃない。何か、お返しをしたような気がする。
それにしても、まったく期待していなかったので、義理ではあっても、嬉しかった。
「どうもありがとね」
と言うと、あるナースが
「みんなからですから」
と言う。そりゃあそうだろう。個人的にくれるとしたら、こんなに大っぴらじゃないだろうし。それにしても、”みんなからですから”と念を押したのは、どうしてだろう。特定のナースからではないですよ、と強調している感じがあった。そこが妙だった。わざわざ念を押すこと自体がおかしい。と、ここまで考えたが、めんどくさくなって、さらに考えを推し進めることはやめた。言った本人は顔を赤くしていたな、そう言えば・・・。
朝っぱらから、やや色っぽい雰囲気になってしまったが、ボクの思い過ごしかもしれない。それでも悪い気はしなかった。
思い直して、ボクは平然とした顔に戻って、最初の患者さんを呼んだ。