朝日のあたる家 ー心に残った会話と情景ー (1991年) Part III
2016年06月01日(水)
〈スパゲッティ〉 リビングストンのジョージ・アンダーソンの店での会話。 僕「近くで、スパゲッティのおいしい店を教えてくれないかなあ」 女店員「スパゲッティねえ。あることはあるけど・・・。スパゲッティなんか食べてるよりさっさと釣りに行ったほうがいいんじゃないの!」 背景ー僕はその時むしょうにスパゲッティが食べたかったのだ。彼女はそう言いながらも地図を書いてその店への行き方を教えてくれた。ところが、その店に行ってみると、スパゲッティを作るのは水曜日だけで、結局ピザを食べることになってしまった。だけど、おいしいピザだった。その店は、はやっていて、イタリア系の顔つきの45才くらいの男が主人らしく、忙しくテーブルの間を立ち働いていた。 ところで、モンタナでは黒人を全く見かけなかった。イタリア人は白人なのだが、WASP(White Anglo-Saxon Protestantーアメリカの主流を占めるアングロサクソン系新教徒)ではないので、それなりに、頑張らねばならないのかな、とチラッと思った。 店の女店員がさっさと釣りに行ったほうが・・・と言ったのにはわけがある。その日はどんよりと曇っていて、いかにもカゲロウがハッチしそうな絶好の釣り日和だったのである。しかも、この会話の直前、リビングストンの少し南にあるいくつかのスプリング・クリークのことが話題になっていたので、彼女は、さっさとそこに釣りに行けと言ったのだ。 さて、そのスプリング・クリークとは、ネルソンズ・クリーク、ドピュイズ・クリーク、アームストロング・クリークの3つである。湧き水の川で、水は澄み、水量も安定していて、水藻が多い。そしてたくさんの大きな鱒が居る。ハッチにでくわすとすばらしい釣りになるそうで、しかも、今が一年で最良の時期だと言う。しかも、今日は曇っていて・・というわけだ。 ただ、これらのクリークは管理釣り場であり、ロッド数(釣り人の数)が制限されていて、釣るには予約が必要である。〈もしかしたら、キャンセルがあるかもしれないから、ちょっと電話で聞いてみてくれないかなあ〉と言ってみると、さっそく電話してくれたのだが、すべて、満杯であった。 そこで、結局、スパゲッティを食べに行ったのだった。 初めての土地で、何もかも思い通りに行くはずがない。いずれまた、次の機会もあるだろう。アメリカに来てまで管理釣り場で釣ってもしようがないじゃないか・・・と、ふてくされたセリフが思い浮かんだが、やっぱり釣ってみたかった。 〈釣り人は釣り人を知る〉 ラストチャンスでヘンリーズ・フォークの釣りのあと、ウエストイエローストーンへの帰り道。道路沿いのコンビニエンス・ストアにて。
僕と朽木さんはその日まともな鱒が釣れず、ぐったり疲れて、その店に飲物と何か食べるものを買いに寄った。夜の9時頃だったろうか。店には他に客はいなかった。もちろん、僕たちは釣りの格好をしているわけではなく、帽子も、釣竿も、ベストも、ウエーダーもすべて車の中に放り込んであった。 ドアをあけ、中に入ってすぐ、僕は大きなため息をついたと思う。そして、レジに居る60年配の男と目が合った。僕は力なく、〈やあ〉と声をかけた。僕達はジュースと缶ビールとビーフジャーキーを選び、レジに持って行った。 男「釣りはどうだった?」 僕「?」 「どうして我々が釣り人だと分かったの?」 彼は、じっと僕を見て、こう言った。 男「釣り人には釣り人が分かるんだよ」 僕「・・・!」 しばし、間をおいて、 僕「あ、そうだ、釣りの結果ね。全然、だめだワ。お宅もときどき釣りに行くのかい?」 男「この年だし、この頃は、あんまりね」 〈元気なうちに・・・〉 ウエストイエローストーンの町にあるスリーピーホロー・モーテルにて。 ある夜、モーテルの裏のポーチで、オーナーのラリーとの会話。彼は、50代後半だろうか、パイプを片手に、相手の目を見ながら、ゆっくりと話す。
僕「ボブ・ジャクリンもかわいそうな事をしたね。何年か前に離婚したそうだし、今年は店が焼けてしまって」 ラリー「そうなんだよねえ。金の問題は保険でカバーされるから問題ないけど、金で買えないものも店の中にはあっただろうからねえ」 僕「そう、かけがいのないものがね。レオン(チャンドラー)からも彼に会うよう勧められていてね、今日、仮店舗に行ってみたら、お母さんが病気で入院したからってニュージャージーに帰っていて留守だったよ」 ラリー「レオンの奥さんは乳ガンで何年か前になくなったし、レオン自身も顔に癌ができたらしいよ。みんな色々かかえて居るんだよねえ」 僕「ところで、聞いていいかなあ。あなたの奥さんはどうしているの?顔を見ないようだけど」 ラリー「4年前に癌で死んだんだ」 僕「本当に!それは気の毒だったねえ。人間なんていつ何が起こるか分からないもんだね。我々もいつどうなることやら。やっぱり、元気なうちに・・・」、 間髪を入れず、 「できるだけ釣りをしておかなくっちゃ!」 と、僕の言葉と彼の言葉が重なった。 二人「フ、フ、フ」 - つづく
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カテゴリ日記
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投稿日時2016/06/01 21:55
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