お名前:焚火
医は仁術。
情けはひとのためならず。
彼女の作ったケーキで幸せになるひとも居るはず。
さっき、20歳の若い女性が診察室に入ってきた。製菓衛生士つまりパティシエになるという。 「そうかい、パティシエねえ。お菓子を作るんだね」 「そうなんです。もう試験を通ったので、申請するための書類がいるんです」 見ると、可愛い、まじめそうな子だった。母親といっしょだった。 「それで、どんな診断書が要るのかな」 「麻薬とか大麻中毒とかではないという診断書です」 「あのねえ、どんな項目が必要なのか、紙に書いてあるものがあるでしょ」 すると親子で顔を見合わせて、覚えがないようだった。 「じゃあ、さっき言った項目で書けばいいんだね」 「お願いします」 「大丈夫だね?この手の診断書は僕に責任がかかるんだからね」 「はい、ぜったいやっていません」 と言う。では、書きましょうと言って、僕は診断書を発行した。 そして、その二人は一度帰宅して、10分後くらいにまたやってきた。 「あのう、すみません。帰ってよく探したら書いてある書類がありました」 と言って紙を差し出した。見ると、必要な項目が書いてあり、先ほど僕が書いた診断書では役にたたず、書き直さなければいけなかった。僕はややムッとしながら、あらたに診断書を書いた。 部屋にもどり、考えた。このまま黙っていると受付事務は2通分の診断書料をとるかもしれないと。感じのいい母娘だったし・・・ 僕はすぐに内線電話をとった。 「あのねえ、さっきの若いお嬢さんだけど、ケーキができたら持ってきなさいと言ってくれ。診断書料は1通分でいいから」 と言うと、受付のモリコさんは大笑いしていた。僕の計らいは受付にもウケたようだった。 |