8月9日(日)。この日は予備日であり、釣りをしてもしなくてもいい日だ。M野一家はバート・イシュルに観光だそうだ。僕としてはトラウン川をのぞいておきたかった。トラウン川はもともとヨーロッパ随一の鱒釣りの川としてよく知られ、ことにグレーリングは大きかった。僕は1980-95年に何度も釣ったことがあるが、今から10年ほど前からカワウが大挙して飛来し、グレーリングはほぼ全滅してしまった。だが、渓相や水質はいいのでブラウンやレインボウは大きく育つ。その懐かしのトラウン川に行ってみた。
ホテル・マリエンブリュッケ(トラウン川沿いの有名な釣り人ホテル)に行き、川を覗いてみると、大変な増水だった。とても釣りにならない。ホテルの管理人に聞くと数日前に大雨が降って、増水が収まらず、とても釣りが出来る状態ではないとのことだった。

大増水のトラウン川(トラウン・バイ・グムンデン)
仕方なく引き返し、コッペン・トラウンに行ってみることにした。ここはトラウン川の上流部で、グムンデンの南約60キロメートルのハルシュタット湖に流入している部分である。ハルシュタットは古くからの岩塩の産地で、湖は美しいし、湖岸には保存された古い民家も多いので観光地にもなっているので、ダメモトで行ってみることにした。ところがコッペン・トラウンも増水で釣りにならないことがわかった。
増水のコッペン・トラウン
仕方なく、観光客になって湖や民家の写真を撮った。
グムンデンに向けての戻り道、天気が良かったので、前から寄りたかったトラウン湖畔にあるトラウン教会に行ってみることにした。教会の天主堂は高台にあり、登り道に見覚えのある花を見つけたので写真を撮った。カタクリと信じていたのだが、その夜、M野夫人に見せるとシクラメンの原種だそうだ。もう一つの青い花は名前が分からない。
教会内部はこぢんまりして好ましかった。目を引いたのは説教祭壇で、その基部にはおびただしい数の魚が彫ってあった。
さて、グムンデンに戻ったのは4時頃だったろうか。もしやと思ってもう一度トラウン川を見に行った。それはスタイヤーミュールという場所で、川の中央に島があり、川は二手に分かれているところだ。橋の上から川を見ると
「何だアレは?!」
と驚いた。橋の直下に巨魚が群れているではないか!しかも魚の居る川の流れは十分に釣りになる水量だった。
とたんに釣りたいクン心がムクムクとわき上がった。まだ釣る時間は2-3時間はある!急いで車にもどり、エリカに携帯で電話して遅くなることを伝え、入漁証を買うために10キロ離れたホテル・マリエンブリュッケに向かった。事故を起こさない程度に急いで。管理人に会い、今から釣りをしたいのですぐに釣り券を買いたいと言うと、けげんそうな顔をしたが、すぐに入漁証を作ってくれた。北部オーストリアの釣りの年券が15ユーロ、トラウンの日釣り券が80ユーロ(合計日本円にして13000円ほど)と安くはないが、ただちに購入し、スタイヤーミュールにとって返した。
そして何匹か釣れたが、最大サイズは55センチメートルの立派なレインボウだった。
その夜、エリカの所に帰ると僕の分の夕食を残してくれていた。皆が、
「どうでした、釣れましたか?」
と聞く。
「はあ、何とか」
「どのくらいの大きさですか?」
「ちょうど55センチありました」
「55センチというと、ええっ、そんなに大きなのが釣れたんですか!それはスゴイ」
「はあ、まあ・・・」
と謙遜するものの、内心は鼻高々の気分だった。
ここで、この家の主、エリカ・ウンターバーガー女史を紹介しよう。今回何枚か撮った中では、この鏡の中のエリカがいちばんかわいく写っていた。
今日もいろいろあった長い一日だった。ちょっと酸っぱいオーストリアワインを飲み、いい気分でベッドにもぐり込んだ。