１１－１２日の週末、今年最後となる山梨県日川に１泊の予定で釣りに行った。
　土曜は昼過ぎに出発し、夕方標高１４００メートルにあるペンションすずらんに着いた。途中、川に降りられるすべての場所に車が止まっていた。５台以上は居ただろう。間違いなく釣り人であり、皆今年最後の渓流釣りに気合いが入っているようだった。やれやれ、こりゃあ難しい釣りになりそうだと思った。
　この日は時間もあまりなく、ペンション裏から日川に入り、これまでやってなかった日川最上流部で釣った。足跡が多く、ついに濡れた足跡が石の上にあるのを見つけてしまった。それでも何とか１匹、カタを見ることができ、ホッとしたものだ。これでウジニッキのグラスロッドに入魂が出来た。
　ペンションに帰ると東京からの年配の釣り人と一緒になり、彼も１泊するそうで、一緒に夕食を食べ、飲んだ。彼はつるやの古くからのお客さんで、話がはずんだ。開高健の話で盛り上がったなあ。
　翌日曜はある支流に入ろうと思っていた。そこは広く知られている沢ではないが、それでもそこそこの釣り人は入る。小さな沢なので誰かがその沢に入られると、後から入った人に釣れるチャンスはほとんどない。餌釣りも入るが、餌釣りは朝が早く、夜の白々明けに入渓する。また、最近ではフライの連中も朝一で入渓する人がいる。僕はその沢の一番乗りをしたいのだが、早起きは苦手である。また、この日は友人が来て一緒に釣りをすることになっていたので、彼のためにも沢の一番乗りを確保したかった。そこで考え、あるアイデアを思いついた。今晩のうちに車をその沢の入り口の所に停めておこうと。そうしておけば明日の早朝にその沢に入ろうと来た釣り人は僕の車を見て先客が居ると思い込んであきらめるだろうと。フェアではないし、ズルはズルである。しかし、それほどタチの悪いズルではないだろうと勝手に思うことにした。意識的頭ハネや稚魚を持ち帰る釣り人よりはずっと可愛いのではないだろうか？そして、思い切って実行した。車を停め、真っ暗な山中を懐中電灯をつけて歩いてペンションまで戻った。
　翌朝は７時に起き、ゆっくりと朝食を食べ、コーヒーを飲み、三島のＹ田君と二人でその沢に入った。僕のズルの話をすると、Ｙ田君は
「え、そんなことをやったんですか！確かにねえ、車が止まっていればあきらめるでしょうねえ。うまいこと考えましたね｣
「ちょっとね、苦肉の策なんだが。欠点は前日に泊まらなきゃいけないことだね」
　今日はカゲロウロッドの真竹、五角、6' 6" #3（相模の狂四郎の銘入り）の入魂も兼ねていた。入渓してわりにすぐに１匹目が釣れた。うむ、やはり我々が一番乗りのようだ、うまくいった、とほくそ笑んだものだ。この沢は薄暗く、道路からはかなり離れていて、クマの目撃率の高い沢でもあった。ズルなんかしたので、天罰が落ちて、クマに遭遇なんてゾッとしないなと思いながら釣りをしたが、幸い、クマを見ることはなかった。結局、１キロ弱ほど遡行して、僕にはここでのアベレージサイズである２２センチほどのイワナが３匹、Ｙ田君には２匹釣れたが、そのうちの１匹は２６センチほどあり、この沢では最大サイズであった。皆、とても綺麗なイワナだった。
　沢の途中、開けた所があってそこで昼食にした。見回すとトリカブトの花が一面に咲いていた。こんな群落はめずらしい。たくさんあるから、一枝地面から引き抜いて前から一度見てみたかったトリカブトの根を見てみた。球根風の太い根であった。群落の全部のトリカブトがあれば何人殺せるかなんて思った。沢の周辺は白樺、照葉樹が多く、まったくの自然林であった。
　ペンションに戻り、一休み。桃のシャーベットがおいしかった。オーナーのＦ屋さんも出てきて釣り場管理の話になった。彼から聞いたんだが、今日行った沢周辺は保存林になっていて、まったく植林がされていないそうだ。
「だから川がいいんですよ。魚も自然産卵もできるし。この沢は今後も大事にしていきたいと思っています」
とのこと。帰りには天目温泉で「樋口一葉」せんべいをおみやげに買った。
　これで日川も今年はおしまいだ。また、来年。
　イワナよ、大きく育って待っていていろよ！　


日川



秘密の沢




Y田君が釣ったこの沢の大物