5月4日、曇り、ヘラブナ釣り2日目。昨日は何事も初めてであり、とまどうことも多く、ホテルに帰ってきた時には疲労困憊していた。釣り具を整理して、翌日の準備をしたら、もう10時頃になっていた。風呂に入るのも面倒なので、ホットタオルで体を拭いて、早々に寝た。 今日のスケジュ-ルは1日目と同じである。この日は晴れる予想だったのだが、ほぼ一日中曇っていた。ポイントに行ってみると、昨日よりはヘラが当たり出すのが早かった。聞けば毎日同じ場所で釣りをしているとヘラブナが寄ってきて、1日目より2日目、2日目より3日目がよく釣れるようになるらしい。湖は本当に美しく、ヤマザクラが満開だった。 さて、釣りのほうでは、F間先生の大声が相変わらず響きわたっていた。彼は皆に上手になってもらいたい、もっと釣ってもらいたいと思っているようで、そのため、「指導」が行われる。ボクが仕掛けを投入すると、彼はボクの浮きがなじむのを見ていたようで、すかさず「いま当たった!」「いま、食い上げた!」「それじゃあ合わせが遅い!何やってるんだろうねえ」「ア、とか、ウという言ってるが、声じゃあ釣れない。合わせなきゃあ」「あーあ、また当たったねえ。ダメダメ、ちっとも学習してないねえ」などの声が飛ぶ。ほかにもたくさん言われたが、忘れてしまった。ときどきはこっちがムッとするような激しい叱咤の声が飛ぶ。もっぱら叱られるのはボクと小夜さんだけであり、客だけが叱られているのであった。本人は教えているつもりらしいが、表現があまりにストレートなので、「お叱り」に聞こえるのだ。 どうやらこの先生、自分は職人の親方と思っていて徒弟を叱っているような気になっているらしい。そして、思っていることを、歯に衣着せず、遠慮なしに、そのままポンポン言うことにしているようだ。そういう性格のようだし。それに対し、ボクは「ハイ、ハイ、分かっているんですがね」と受け流すが、小夜さんはボソボソとぼやき続けるのだった。「そんなに言われたって、やろうとしているんだけどうまくいかないんですよ。言い方がキツイなあ。穴があったら入りたいくらいですよ」これに対してまた師匠から「お叱り」が飛ぶ、小夜さんがぼやく。まるで漫才のかけあいを聞いているようだった。 ボクも2日目にして、すこし要領がわかってきて、この日は12枚を釣った。小夜さんは調子が出ず、3枚ほどだったようだ。F間先生は日が照って気温が上がるともっと釣れるんですが、今日はずうっと曇っていましたからねえ。明日に期待しましょう、と言っていた。 この日の夕食は小夜さんの希望でF間先生を入れて3人で洋食屋にオムライスを食べに行った。それは時間が止まったような、昭和時代の洋食屋だった。料理も典型的であり、懐かしく、おいしかった。釣りから離れるとF間先生のものの言い方はガラッと変わり、ふつうの言い方になるのであった。ふむ、釣りの時は世俗を離れて、お互い気をつかわず、年齢や肩書きを忘れて、おたがい自然の中の一個の釣り師として接するという考え方がよく理解できた。腕が上の者が下の者を叱るのは愛情から出ているのだった。まことにさわやか、真の釣り師の面目躍如たるものがあった。 タフな釣りの2日目が終わった。ボクもじゅうぶん楽しんだし、たくさん教わったような気がしていたが、あまりに多くの出来事や言葉に圧倒され、整理しきれないまま、寝てしまった。まだ、あと1日あるのだからと・・・。