ボクがやっているクリニックでは土曜日には(すべての土曜ではないが)大学病院から若いドクターに来てもらっている。おかげでボクは休めるわけで、その時は世間並みに土日連休になる。で、8月後半には医師になって3年目という、とても若いドクターが来ることになった。D君といい、脳外科医の卵である。その話があったとき、そんなに若いのにクリニックを任せるのは心配だったのだが、会ってみると31歳と年を食っていて、落ち着きもあるので来てもらうことにした。
8月23日(土曜)に初めて来てもらったが、あとでナースに話を聞くと、患者さんの話はよく聞くし、応対も丁寧で、患者さんは喜んでますよとのことで安心したものだった。
その日は彼を連れて昼食に行き、いろいろ話をしたら、彼はバス釣りを10年以上やって来たそうで、フライフィッシングにとても興味があるので、ぜひ教えてほしいと言う。
そこで30日(土曜)彼を連れて中津川フィッシング・フィールドに行った。ボクの古い竿やリールを貸して教えた。キャスティングも20分ほど練習すると何とか飛ぶようになった。
そしていよいよ釣り初めて1投めにドライフライで小さなニジマスが釣れてしまったのだった!だが、2匹目がなかなか釣れず、ときどき教えたりして2匹目が釣れ、真っ暗になって3匹目が釣れた。
釣り終わったとき、彼は、
「バス釣りがいちばん面白いと思ってきましたが、こっちのほうがずっと面白かったです」
「道具を揃えたいんですが・・・まったくの初心者用の安物じゃなく、ある程度長く使える中級者向きぐらいのがいいんですが。そして、とりあえず、この釣り場に通おうと思います」
と言う。あらあら、そう来たか、と思った。さらに
「叔父がフライをやってまして、フライを巻くのを見ていたことがあるんです。フライを始めるとのめり込みそうで、これまで近づかないようにしてきたんです。これまでもルアーは自分で作ってきましたからフライを作るのもやってみたいと思います」
という。なんと、こりゃあ、マズい男に、マズい事を教えてしまったかなと思った。待ち構えていた所にピッタリはまったようだった。
卒業後3年目という時期は必死で勉強しなければいけない時期なのに、フライなんて覚えたら勉強がおろそかになってしまうかもしれない。ただ、これまで10年以上バスをやってきたそうだから、道を誤ることはなさそうだが・・・。
さあて、どうなることやら。彼はどんな人生を送ることになるのか。
ちょっと気になるのは、将来、ボクは感謝されるのか、それとも恨まれるのだろうかということ。
ま、彼の人生である。もうガキの歳でもないし、自らの責任においてやってもらおう。