本屋大賞をとった「海賊とよばれた男」を最近読んだが、それは出光興産の創業者である出光左三の話だった。出光は福岡県宗像の出であることに僕は親近感を覚えた。宗像市は福岡市からもわりに近いが行ったことはない。
この本はなかなか面白く、読むことをお勧めできる。ただ、上下巻とちと長く、上巻だけでもいいと思う。この本の中で2点印象に残ったことがあった。
ひとつは彼が仙厓和尚の墨絵が好きで、絵を収集していたこと。仙厓さんは博多ではとても有名であり、仙厓さんがお勤めした聖福寺はボクの生家から歩いて10分ほどと、とても近くにあり、小さい頃はよく遊びに行っていたものだ。その絵は簡素、洒脱、おどけたところがあって親しみやすい。
もうひとつは、「マルクスが日本に生まれていたら」という本を書いていたこと。このタイトルにボクは興味を惹かれ、読んでみた。
これは1966年頃、出光興産の社長室メンバーがやっていた勉強会でカール・マルクスを研究し、出光左三と一問一答の形で記録に残したものだ。この本は英訳(?)され、世界の実業家や哲学者からも注目されたらしい。もともと社員用の書籍だったが、評判が伝わって読みたいという希望が多く、春秋社から新版として発行されたもの。
感想だが、とても面白いので、皆さんにぜひご一読をおすすめしたい。欧米は「物の国、対立の国」で、日本は「人の国、和の国」だというのが基本姿勢であり、マルクスと自分とはめざす地平は同じだが、土壌がちがうので、達成するための方法はちがったものになった。マルクスが日本に生まれていたら、その唯物史観・共産主義は生まれなかっただろうというのが出光の考え方だ。
基本的にはボクは出光の考え方に賛成である。ただ、無我・無私、互譲互助、和の精神が日本独特のものだと出光は言っているが、この点に関してはボクはやや疑問を感じる。先進国にあってはという前提であれば、正しいように思うが・・・。
日本はたまたま島国であり、隣国とは地続きではないので、隣国との摩擦は欧米とは比較できないくらいに低い。日本は大きな村だったというふうにボクは思っている。日本人は農耕民族であり、地域で固定して生存していくため、自然発生的に、無我・無私、互譲互助の精神が美徳として生まれたにすぎないだろう。世間に申し訳が立たないという言い方も同じたぐいのものだろう。明治以降に西洋の物がドッと流れ込み、日本も「物の国」になり、その結果、物に振り回され、破局に向かっているのかもしれない。
ま、細かいことは置いておくとして、出光は資本主義、共産主義のいいところをとって、日本に根ざした人生観・世界観を持つに至った。彼は、”私は日本人の良い点を伸ばすべきだと言ってきたが、欧米人もこれを見習ってくれれば良い社会になると思うんだが、欧米人には理解できないようだね”と言っている。その具体的なことがらを知りたい方は、この本を読んでほしい。
裸一貫から大会社を作り上げた男には机上の主義ではなく、人の心を動かす哲学があったのである。