今回は一般人はおそらく見たことがないもの(おそらく若い医者も見たことがないもの)をお見せしよう。それは麻薬であり、麻薬の代表格であるところのモルヒネだ。 ボクのクリニックでは最強の鎮痛剤としてモルヒネを用意しているが、この15年間で使ったのは3回だけだ。いずれの場合もモルヒネを使った後はただちに救急車を呼んで患者さんは大きな病院に搬送している。相模原市は救急車がよく整備されていて、119番に電話すると5分以内には救急車が来てくれる。これだけ整備状況がよければボクが麻薬を使う必要はないように感じてきていた。 おまけに麻薬は管理が面倒くさい。使用・在庫報告書を毎年出さなければいけないし、麻薬免許の更新も2年ごとにやる必要がある。 そこで、今回、当院では麻薬をやめることにした。その手続きが大変だった。まず、市保健所に行って麻薬施用者廃止届けを出し、つぎに県庁に行って残った麻薬の廃棄を依頼しなければならない。 というわけで昨日は残ったモルヒネ17アンプルを持って横浜にある神奈川県庁に行ってきた。 久し振りの神奈川県庁だった。昭和3年に作られ、煉瓦と大理石の立派な建造物であり、中央には”横浜3塔”の一つである「キングの塔」がそびえていた。手続きのほうはあっけないくらい簡単に終わった。 モルヒネは人間の歴史でもっとも古くから使われてきた鎮痛剤・耽溺藥であり、文学にも登場し、阿片戦争をもおこした。モルヒネからはヘロインやフェンタニールなどの化学物質が作られ、副作用の少ないそれらに現役の座を明け渡しているが、ボクはモルヒネも上手に使えばいい薬だと思っている。自衛隊や米海兵隊ではいまでも常備されているらしい。