お名前:k久村
本当に良かったですね、川野さん
夜の9時半、いつものようにボクは自宅からクリニックに向かって車を走らせていた。そして三段の滝と名付けられた場所の急な下り坂を降りている時、ある感覚、懐かしいような甘い感覚を感じた。それは久しく忘れていた感覚であった。久しくと言っても何年もというわけじゃない。1-2ヶ月くらいの期間のようだった。それは肺癌が見つかって、その診断と治療に振り回されていた期間だった。そして手術後の体力がすこしずつ回復して余裕が生まれ、そのおかげで戻ってきた感覚のようであり、それは”気力”というか”やる気”と呼んでいいような感覚だった。 手術の後、2種類の痛みが続いていた。1種類は切った場所の痛みであり、持続的な痛みにくわえて体を動かしたり、振動が加わるとズキンと痛むのだった。この痛みは手術後10日ほど続き、そのあと日を追う毎に軽くなっていった。手術後20日の現在、それはほとんど消失していると言っていい。 問題は別の種類の痛みであり、それは胸の前の部分、ちょうど左の乳あたりがヒリヒリと痛み、押さえてみるとチクンチクンと痛んだ。その場所は切った部位から離れていて、何もしていない場所だった。この痛みが厄介で、持続的に痛む上に、体をちょっと動かして肌着が皮膚とこすれるとヒリッと傷むのである。これは手術の時に肋間神経が圧迫されて起こった肋間神経痛であった。これは「開胸術後疼痛症候群」とも呼ばれているようだ。これがずっと続いていて苦痛であった。そこでいろいろと調べ、神経の興奮を抑える薬(リリカとメキシチール)を飲み始めたら、2日目あたりから痛みが軽くなり、痛みを忘れている時間がだんだん長くなっていった。そして今夜、”あの感覚”を思い出したのだった。ということは痛みを別にすれば元の健康状態に戻りつつあると考えていいように思った。 痛みというのは厄介者でね、苦痛を我慢するのに気力を使ってしまう。だから疲れるのである。疲れれば、さらに気力を失い、やる気を失ってしまう。 その感覚は普段はあまり感じることは無く、自覚が無いんだが、体に大事件が起きていると失われてしまい、大事件が収まってくると顔を出して気付かれたというような感じだった。 今晩は、あの懐かしい感覚が戻ってきたことを喜びながら晩酌を楽しもうと思っている。 |