10月20日(火)、晴れ。 晴れが続いている。ペンションの近くの家に古風な煙突があったので写真を撮った。ヨーロッパではさまざまな煙突があっておもしろい。 この日も朝10時にドラゴが迎えに来てくれた。川に向かう途中、ひときわ目立つ雪に覆われた山が見えた。「あれは?」「あれがトリグラウだよ。スロベニアでもっとも高い山で、姿が美しいので、スロベニアの象徴になっているんだ。僕は何度も登ったよ」と言う。そう言えば、昨夜山では雪が降ったようで、それほど高くない山にも冠雪が見られていた。 この日は昨日より2-3キロメートル上流のサバ・ボヒンカ川に行った。そこでは鉄道と平行に川が流れ、川幅は広いので、深さは浅めになっている。橋がかかっていて、橋から眺めると遠くの山々まで見え、気持ちのいいところだった。水位はじょじょに平水に近づいてきているが、まだ20センチメートルほど高いようだ。 橋ではドラゴの友人のリバーキーパーに会い、立ち話になった。僕はもっぱら写真を撮っていたが、橋の上から川を見下ろすと、点々と魚が付いているのが見え、嬉しくなった。魚は40-50センチメートルはあって、15年前のトラウンを見ているようだった。 立ち話の後、ドラゴが、「橋の下流側数百メートルのところで、左岸側にはグレーリングが群れているらしいよ」と言う。というわけで、そこに入ることにした。 そして1時ごろからライズが始まった。空中や水面には目立った虫は飛んでいなかったが、オナシカワゲラらしいものがいくらかは見えた。このライズが厄介でね、CDCイマージャー、パラシュート、ウィング付きカディス・パターンなど、いろいろ使ったが、魚は見に来て引き返したり、フライを突つくだけで食わなかったり、なかなか鉤掛かりさせられなかった。横に居たドラゴが「これを使ってみてくれ」といって渡してくれたのは#16くらいのクリーム色の単純なドライフライで、ウィングは無く、白っぽいハックルが少なめに巻いてあるものだった。ハックルはコックではなく、ヘンのようだった。そしてこれが見事に効いた。このフライに換えて1投めにグレーリングが釣れたのだった。30センチメートルほどだったが、嬉しかった。その後、同じフライで3匹ほど釣れ、36センチメートルのもいた。この場所にはニジマスはあまり居ず、グレーリングばかりがよく釣れた。 ドラゴは言っていた。グレーリングはね、ニジマスと同じ場所にも混在することがあるが、よく集団を形成し、その場合は集団内にはニジマスは居ないんだ。グレーリングはどっちかというと鱒よりテリトリーを持ちやすく攻撃的な性格が強いようで、鱒をつついて群れから追い出すらしいよ。グレーリングは目が大きいよね。あの目でフライをしっかり見るもんだがら選り好みが激しいんだよ。また、就餌行動にもパターンがあってね、2~3回連続して水面の餌を取った後はしばらく休んでまた2~3回連続してライズするんだよ。また、鱒はフライを追いかけてきて食ったりするが、グレーリングの場合はフライを追いかけることはほとんどないね、と。 また、ドラゴは、いい型のニジマスやブラウントラウトを釣るよりも、型は小さくてもグレーリングが釣れたのを喜ぶ人が多いんだよ。やはり、釣るのが難しい魚を釣ったときの方が喜びが大きいからね、とも言っていた。 グレーリングを見分けるのは簡単だよ。テールがオレンジ色なんだ、と言う。たしかにその通りで、ここのグレーリングのテールは鮮やかなオレンジ色であり、遠くからでも魚がグレーリングであることが分かる。ただ、チェコのグレーリングのテールは赤紫色、トラウンでは青紫色、モンゴルでは黄緑色と、川によってかなり違うものだ。 この日もライズは3時ごろには終わり、川から上がって橋に来ると、上流側からミルク色の濁りが降りてきていた。どうやら昨夜降った雪が晴天で溶けて、雪代が入ったようだった。 やっとまともなグレーリングが釣れ、嬉しかった。今晩はシュナップスで乾杯だ!