10月22日(木)、晴れ。 昨日の釣りがあまりに良かったので、僕はもうかなり満足していたが、せっかくあと二日釣りが出来るので、のんびり釣りを楽しもうと思っていた。この日からガイド無しの単独の釣りであり、どこに行こうかと考え、1日目に行ったところでたくさんライズがあったので、そこに行くことにした。 行ってみると釣り場には1台の車が止まっていた。川はかなり減水していて、いい感じだった。下流側の淵には二人の釣り人が釣っていて、若い方は見事なキャスティングをしていた。話しかけてみると、イタリア人だった。イタリアはスロベニアの隣国であり、スロベニアの首都リューブリアーナから高速道路を2時間も走ればベニスに着く。それほど近いので気楽に来られるわけだった。で、一番釣りたい場所に先客が居たので僕は引き上げることにした。 つぎに行ったのは2日目に行った橋前後の釣り場だった。橋があるとどうしても橋から川を見下ろして魚を見たいものであり、前回の時と同じように見てみた。すると、橋の真下から5メートルほど上流側に50センチメートルはある大きな魚が定位していた。そしてよく見るとその尾びれは明らかにオレンジ色をしていた。なんとそれはグレーリングであった!スロベニアの釣りの4日目であり、ここのグレーリングがどう見えるか分かってきた僕の目には間違えようがなかった。そう言えば、体型もほっそりしていて、鱒の体型とは違う。グレーリングは大きくなっても45センチメートルくらいであり、50センチメートルだと、巨魚であり、レコードにもなるだろう。”サバ・ボヒンカの女王”とも言うべきあまりに大きなグレーリングに僕の目は釘付けになり、めらめらと闘志が湧き、どうやったら釣れるだろうかと考えはじめていた。そのグレーリングが居るところは深さは1メートルくらいで浅く、真っ昼間に釣れる距離まで近づくのは至難の業だった。夕方にライズするのを期待するしかないと思った。 そこで、時間つぶしを兼ねて2日目に釣れた橋の下流側に行くと、またしても1時ごろからライズが始まった。使用タックルを書いておくが、川幅があって遠投も必要なので、竿は9フィート5番のグラファイト、フライラインはWF5F、リーダーは10ヤードほどで、ティペットは5エックスだ。はじめは6エックスのティペットを使っていたが、大型のグレーリングを安心して釣るため、5エックスにしたもの。 2日目の当たりフライはボロボロになっていたので、似たものを探し、磐田の酒井君からもらったソフトハックルが近かったので、それを浮かせて釣るとそれが有効であり、35センチメートルくらいのグレーリングが3~4匹釣れ、とてもいい釣りになった。そのフライを試しに水面直下に流してみたが、まったく反応せず、フロータントを付けて浮かすと釣れるのだった。 そして、5時過ぎに川に入って橋の下の”サバ・ボヒンカの女王”に近づいてみた。橋の上から魚はよく見えていたんだが、川に入ると魚はまったく視認不可能だった。彼女の定位場所のまわりの目印を覚えておいたので、ティペットを4エックスに換えて、定位位置に向かって、彼女の左下からドライフライやニンフを流したが反応無く、つぎに右下に回り込んで狙ったが、結果は同じだった。おそらく彼女は僕の接近に気づいて移動していたんだろう。〈あれは釣れない魚だよ、あんな目立つ所に居て、これまでも釣り人にさんざん狙われてスレにスレているんだから、釣れるもんじゃないよ、釣るのはやめときな、時間の無駄だよ〉という天の声が聞こえるような気がしたが、巨魚を見た釣り人の心はそう簡単に静まるものではない。見なきゃよかったとも思ったが、見てしまったものはしようがない。 夜は冷蔵庫に入っているシュナップスのミニボトルを2本飲んで寝た。