9月20日。この日、台風がかなり北海道に近づいていた。予想では30日の朝に北海道に上陸する可能性が高いらしい。台風が来れば雨も降るし、数日間は川は釣りにならなくなる。つまり、今日、しっかり釣っておかないといけなかった。どこに行くか。阿寒川の状況は良くないし、アメマスなら茶路がいいことはまちがいない。ドリフトウッドの武田さんとも相談して、茶路川上流部で深場の多いポイントを教わり、そこへ行くことにした。
河原に車で降り、上流側には釣り人が居たので、Y田さんと下流へ向かった。ボクはある流れで大きなアメマスを見つけ、しつこく狙ったがフライをくわえなかった。Y田さんはさらに下流に行き、しばらくして携帯が鳴った。
「サケみたいなヤツが居るところをありますよ」
と。行ってみると確かにアメマスとサケが居たが、そこはフライを流しにくいところだった。何度かこころみて、サケが掛かったが、アッというまにティペットが切れてしまった。3Xのティペットを使っていたが、この釣りでは重い錘をつけて底を流すので、ティペットが傷みやすいのだ。
ボクは上流側に戻ることにした。ある深みでアメマスがたくさん居るところがあり、これが釣れなかった。すると上流から若い釣り人が歩いてきてボクに話しかけてきた。
「あのう、昨日ドリフトウッドでご一緒だった方ですよねえ」
と言う。ボクは彼の顔を見て
「ああ、そうだねえ」
「実はですねえ、私は飛行機の時間があって引き上げなきゃいけないんですが、上の小さな流れ込みのある所なんですが、70センチメートル1本と60センチメートル台2本が釣れたんですが、そこにはまだやる気がある魚が数匹居るんで、よかったらやってみませんか」
とのこと。ボクにとって天の助け、渡りに舟であった。
その場所はすぐにわかった。深くて、岩盤の切れ目の所で、流れは緩やかで、かすかに大きなアメマスが数匹見えていた。釣り始めてすぐに明瞭なアタリがインジケーターに出た。すかさず合わせると強い魚信があり、水中で大きな魚体が見えた!魚は上や下に5-6メートルは走ったが、ある時点で疾走をやめて止まり、その場所を動かなくなった。ボクは余分のラインを巻き取り、ドラッグを締めて、持久戦に持ち込んだ。竿はバットから曲がったままで1-2分待って、それから魚を寄せはじめた。すると、以外にかんたんに寄ってきた。ここから先は慣れてきていて、ムリに河原に上げず、浅瀬で両膝で岸に寄せた。手で概算して、約72センチメートルあった。立派なアメマスだった。ヤッタァ、70越えだ!静岡のY川クンがナナマルを越えろと言っていたのを果たすことができたのだ。
その後、同じ場所で60センチメートル台のアメマスが2匹釣れた。そして、さらに何回かアタリはあったが、鉤がかりしなかった。この場所はすこし休ませればまた釣れるようになる感じがしたので、Y田さんに釣らせようと電話してみたら、彼も下流で釣れ続けているそうで動きたくないとの事だった。
ボクは新たなポイントを探しに河原を歩いて上流に向かった。いくつかの流れを渡り、橋の下を過ぎると対岸が崖になっていて、その下が深みになっている好ポイントがあった。そこを釣り始め、ある時点でインジケーターが根掛かりのような感じて止まり、すかさず合わせると、大きな魚が浮かびあがった。デカかった。水しぶきをあげて抵抗したが、こっちはベテランの釣り師なので、数分後には浅瀬に寄せることができた。水中では巨大な魚(80-90センチメートルに見えた)に見えたのだが、概算73センチメートルしかなかった。だが、フィッシュ・コンディションは最高で、デップリと肥っていて、堂々たる顔付きをしていた。このアメマスが今回の最大サイズとなった。
今回のアメマス釣りで気がついたこと。
この日の終わり頃からアメマス釣りについて要領が分かってきたように思う。それは2点ある。ひとつは入渓点から2-300メートルも離れるととたんにアメマスが釣れるようになること。これは、北海道では入渓点近くで釣れてしまうので、河原を遠くまで歩く人は居ないらしい。もう一つはアメマスは食い気がある時と無いときがはっきり分かれること。さらに言えば、ある深みではアメマスは食い気がなく、別の深みではアメマスは皆食い気があるのだった。つまり、河原を歩いて食い気のあるアメマスの居る深みを探せばいいのだ。
天気もよく、すばらしい釣りになり、10匹以上釣った。”大荒れ前の荒食い”ということばがあるが、それだったのかもしれない。夕方からは雨がしとしとと降り始め、台風の前触れのようだった。Y田さんもいい釣りだったようで、二人で気分良く納竿することにした。旅の疲れも出てきているはずなんだが、いい釣りで、疲れも吹き飛んだようだった。