2日目の朝、栃木の友人、S崎さん、O田さんが宿に迎えに来てくれた。いよいよ、「秘密の湖」へと向かう。 身支度を調えて、急な坂を木の枝につかまりながら下りる。しばらくして、湖面が見え、道から50メートル以上はおりて、やっと湖の岸に着く。ようやく来れたなという感慨を感じながら、美しい景色に見とれてしまう。湖面を見ると、ときどき、ライズが起きていた。ここでは先月、50センチメートルのニジマスが釣れ、他に5エックスのティペット切れが3匹あったそうだ。おそらく60オーバーだと思われる。 休憩もそこそこに釣り始めたが、これが釣れなかった!ドライフライはもとより、ソフトハックルやストリーマーを使って見たが釣れない。果ては、管釣り用のインジケーター・フィッシングまでやってみたがだめだった。結局釣れたのは20センチメートルほどの小さなニジマスだけだった。水位が低く、気温も低めであり、活性が落ちていたのだろう。 ついにあきらめ気分となり、流れ込みの細流に行ってみた。そこには2-3センチメートルの小魚が居た。鱒属のようだが、確信が持てず、ランディングネットですくってみた。すると、その小魚の体側にはきれいなパーマークが並んでいた!ここにはイワナもヤマメも居ないので、それはニジマスの稚魚にほぼまちがいないと思われた。2年前には、その細流でニジマスのペアリングも見たことだし、これで証拠は出そろったと思う。 つまり、その湖ではニジマスが産卵して、自然再生産している、ニジマスのサンクチュアリなのだった。だから釣れるニジマスは野生のニジマスということになる。 午後には雨が降り始め、冷えてきたので、焚き火をやった。O田さんが、「秋にでもテントを持ってきて泊まれば星が綺麗だろうなあ」と言う。うむ、それも一興だな、と思う。 帰りが大変だった。道のない急坂を上がるのがキツくてね。S崎さんが用意してくれたロープがとても役に立った。この時ばかりは、ボクも歳を感じたなあ。最後に道に戻ったときには、心臓が破裂しそうにバクバクしていた。 誰からも、その湖はどこにあるのか、と聞かれる。だが、こればっかりは言うわけにはいかない。ひとたび人に知られたら、アッと言う間に釣りきられてしまうことは間違いないのだから。 どの釣り人にも「秘密の釣り場」があるものだろう。ボクにとってはここがその釣り場なのである。いい時期に当たれば、大きなワイルド・レインボウが釣れるんだが・・・ 帰りの東北道は渋滞はなかったが、都内では渋滞にぶつかった。山手通り下の首都高は長い長いトンネルを通るが、ボクは怒りといらいらを抑えるために、あの「秘密の湖」、湯川の美しさを何度も思い起こしていた。こんな穴蔵で排気ガスを吸っているなんてボクにはとても耐えられない。ボクは東京が大嫌いだし、早く通り抜けたい、そればかりを念じていた。