モンカゲロウのダンを2匹捕獲した(ともに♂)。僕はその翅が緑色調が強いことを見てとても驚いた。なぜ驚いたかというと、ダンが羽化して水面から飛び立つさまは何度も見ているし、そのときのダンは明るい黄色~薄茶色なので、近くで見てもその色だと信じていたからだ。
ところが捕獲して間近に見てみると、翅は黒っぽい緑色をしていた。黒っぽく見えたのは濃い色の翅脈が太く明瞭なことが原因らしく、翅脈以外の地の色は明らかに黄色みがかった緑色であった。また、胴体や脚にも黄緑色調があった。エルモンヒラタのように黄色いカゲロウと思っていたが、本当はこんな色だったんだと、本当に驚いたものだ。
記憶をたどると、アルフレッド・ロナルズの「フライフィッシャーの昆虫学」(1856)に描かれていたグリーン・ドレイク(モンカゲロウ)のダンの翅は緑色をしていたことを思い出した(137ページ、図版13)。彼はその翅色を模したフライを作っている。
島崎憲司郎の「水生昆虫アルバム」(1997)にはダンの翅の色についての言及はないが、載っているいくつかのダンの写真には緑色調のものがある。
カウチ/ナスターシの名著「ハッチズ」(1975)には
”モンカゲロウのダンの色やサイズは、その土地や川によって大きく異なります。ペンシルバニア州のライムストーン・クリークでは、メスのモンカゲロウは体長30ミリメートルもあり、色は黄色または緑色です。オスはメスよりずっと小さいのです。いっぽう、東部のフリーストーンの川のダンは黒っぽいグレーで、メスは20ミリメートルしかありません。
そして本家(?)であるイギリスのジョン・ゴダードは"Trout Flies of Britain and Europe"(1991)で以下のように述べている。
”グリーン・ドレイクの翅は、翅脈が目立ち、黒っぽい縁取りのあるブルーグレーで、明らかに緑色の色調を持っています。羽化したばかりのダンが晴れた日に水面を流れると翅は金色に輝き、その色を模したフライパターンが有効となります”
ま、今回すこし調べてみたが、「ハッチズ」の記述がもっとも理にかなっているように思うが、ゴダードもすぐれた観察をしている。もともとモンカゲロウはグリーン・ドレイクつなわち”緑の大カゲロウ”と呼ばれたように、緑色が基本色になっているようであり、狩野川のモンカゲロウはことに緑色調が強い、つまり”本家”に近いのかもしれない。
さて、ここまで調べても、近くで見ると緑色の翅が、光に当たると金色~黄色に見えることは不思議であり、誰もそのメカニズムを説明していない。仮説を考えみたので紹介しよう。
モンカゲロウのダンの翅の表面は、他のカゲロウのダンと違って、とても滑らかでツヤツヤとしていて、光をよく反射する。この翅に太陽光があたり、パタパタと羽ばたくと、太い翅脈からの乱反射も混ざって、結果的に各種の反射光が混ざって、結果として金色~黄色に輝くんじゃないだろうか。光学の専門家に聞きたいところだが・・・。
そして、フライのイミテーションはどうするかという問題が残る。もちろんモンカゲロウが食われている状況で、という前提で、である。僕の答えは、少々ずるいが、食われているモノに似せて作ればいい、と。パタパタ羽ばたいているモンカゲロウが食われていれば薄茶色系で、動かないで流されているモンカゲロウが食われていれば、緑色っぽいフライで。
ま、以前にはモンカゲロウが捕食されるのを見たことがあるが、最近ほとんど食われていないようで、この二日間の夕方、狩野川ではたくさんのモンカゲロウが羽化して水面を流されたが、まったくアマゴには捕食されていなかった。魚の捕食行動は謎だらけなのである!
狩野川本流で捕獲したモンカゲロウ
ロナルズの「フライフィッシャーの昆虫学」に出ている図