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2015年05月14日(木) 

 2ヶ月ほど前のこと、田中山のK木さんの所を訪問したとき、彼が
「このCDを聞いてみてください。このところ琵琶を時々聞いてますが、そのCDの中の敦盛(あつもり)がいいですね。名演だと思います」
と言った。
 そして、そのCDを車のオーディオで聞きながら帰路についた。CDには5曲ほど入っていたが、その中の「須磨の浦(敦盛)」を聞いて衝撃を受けた。これまで聞いた、だらだらと眠気を誘うような琵琶歌とはまったく違っていた。声がとても力強く、ことばが明瞭なので、何を歌っているかよく分かり、めりはりのきいた歌い方は曲の内容を劇的に聞く者に伝えていた。しかも琵琶の演奏は驚くほど迫力に満ちていた。その音はやさしく澄んだ音から、撥が弦をたたきつけ、弦を擦る激しい音まで、変化に富んでいた。演奏者の気迫が伝わってきて、〈これはスゴイ、これはホンモノだと思った〉。ボクはサービスエリアに車をとめ、CDケースを見てその弾き語りの演奏者の名を確かめた。それは薩摩琵琶奏者の鶴田錦史(つるたきんし)という人だった。
 ボクは音楽は好きだが、邦楽につよく惹かれたことは一度だけであり、それは京都で聞いた、笛で演奏された「敦盛」だった。今回二度目ということになる。
 調べてみると、鶴田錦史(1911-1995)は驚くべき生涯を送った人だった。明治時代に女として生まれ、こども時代に琵琶の名手となり、弟子をとって教え、結婚して子を二人産んだが夫の不倫で離婚して独立し、琵琶をやめ、男となって事業家となり、30年の空白の後にふたた琵琶師となり、独自の琵琶演奏法を開発し、薩摩琵琶中興の祖となった。武満徹(作曲)、小澤征爾(指揮)、横山勝也(尺八)とともに1967年にはニューヨークのリンカーンセンターで「ノヴェンバー・ステップス」を演奏し、バーンスタインは涙を流して感動したそうだ。以来、日本を代表する琵琶奏者として国内外で活躍した。  
 この鶴田錦史の生涯を書いたのが「さわり」(佐宮圭著、小学館、2011)という本であり、以下にその抜粋を載せよう。
 「さわり」にはいくつかの意味があり、よく出来ている部分のこと、また痛みや生理などの障りがある。その「さわり」をもっとも重視している楽器が琵琶であり、振動する琵琶の弦は微妙にコマに触れ、虫の声に似たビーンという音を発する。それは西洋音楽から見れば雑音なのだが、日本人の感性では、わざと耳に障るような、命ある複雑な自然の音に近づけることによって、より美しさを感じるように育まれていた、と佐宮は書いている。
 また武満徹は、この「さわり」について、雑音(ノイズ)というものを媒体として自然世界に連なってゆくための積極的な方法だと言っている。

 今回は知らなかった世界に触れ、おもしろかった。
 スゴイ人が居たもんだと思う。
 ま、一度CDを聞いてみることをお勧めしたい。
 お勧めのCDは:
  コロムビア邦楽名曲セレクション、20、琵琶
  ビクター邦楽名曲選、14、琵琶

 You tubeではあまりちゃんとしたものはないが、以下の物は参考にはなるだろう。
https://www.youtube.com/watch?v=oklJFTbvzaQ
https://www.youtube.com/watch?v=3SakbvBWWBQ


閲覧数810 カテゴリ日記 コメント0 投稿日時2015/05/14 18:52
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