-ウイッシュベル(Wish Bell)を鳴らした- 昨夜はミッキーフィン(アルコールと入眠剤を一緒に飲む、仕込み酒のこと:詳細を知りたい方は拙著「フライフィッシング用語辞典」を参照されたい)のおかげでぐっすり寝て、朝7時半に起きて窓から外を見ると秋の朝霧がたちこめていた。だが、日が昇るとみるみる霧は晴れて青空となった。目ざましをかねて外に出ると、冷たかったが、気持ちが良かった。スロベニア滞在中、このあたりは標高も約500メートルと高いので、朝晩は5-6℃で、昼間は陽が当たっていれば14-15℃くらい、日陰では7-8℃だった。忘れ物があったので車に行って、ふとスピードメーターを見ると、210キロ/hまであることがわかり、驚いた。車はコンパクトサイズのプジョーであり、スポーツカーでもなんでもないのだが。 メイヤーペンションは8室くらいのこぢんまりした家族経営の宿で、こんな宿に泊まるのが僕の好みだ。食事は朝食だけである。 この日は川の減水待ちを兼ねた観光の日であった。結局6泊もすることになったこの地はブレッドBredという人口1万人ほどの町で、アルプス南麓の山岳地帯にある。町はブレッド湖という自然湖のまわりにあり、古くから保養地・観光地として栄えてきた。湖岸の100メートルほどの岩壁の上には11世紀につくられたブレッド城があり、また湖にはブレッド島という小さな島があり、そこにも古い教会がある。美しい湖と城と教会のある小島、こられが絶景をもたらし、スロベニア随一、そしてヨーロッパ有数の観光地になっている。 僕とエリカはまずブレッド城に行った。観光客が多く、中国人や日本人の団体も居た。頂上の広場から絶景を楽しんでいると、ときおりガチンという大きな音がしていた。見に行くと男が鉄のハンマーで何かを力一杯叩いていて、観光客が彼を取り囲んでいた。それはコイン状の金属に文字と絵柄を付けていたもので、僕も4ユーロ(?)を払うと1枚作ってくれ、出来上がったものを見ると、ブレッド城建設1000周年記念コインであった。 つぎに行ったのが、旅行前から必ず行こうと思っていたブレッド島だ。ここは”おとぎ話のような島”と呼ばれ、緑の中に高い塔を持つ聖マリア教会がある。僕たちは湖岸で手漕ぎボートを借り、島にわたり、99段の石段を登った。そして15世紀に建てられたという聖マリア教会に入ると、会堂の祭壇寄りに天井から太いロープが垂れ下がっていた。エリカが壁の説明を読んで「あのロープはね、鐘を鳴らすものなの。鐘はウィッシュベルといって、願いごとをしながら鳴らすと願いがかなうと信じられているの。とても珍しいものよ。オーストリアでは見たことがないわ」と言う。誰でも鳴らしていいそうなので、僕もやってみた。ロープが長くて巧く鳴らせず、力一杯引っ張っていたら、管理人がとんできて、もっと静かに鳴らしてくれと叱られたものだ。どんな願い事をしたかって?ま、ここだけの話、〈あと5年は生きたいな〉と願った。 お昼は高台の見晴らしのいいレストランで食べ、そのあと、明日から釣る予定のサバ・ボヒンカ川Sava Bohinjkaを見に行った。平水より50センチメートルほどは高いようだった。支流も見てみようと川沿いのジャリ道を走ってみたら小川があり、その小川はなんと急な絶壁の途中から吹き出していた湧き水の川だった。その水色は透明感のある緑色であり、地中の岩石の成分が溶けているようだった。なるほど、サバ・ボヒンカやこのあたりの川の水色が緑色なのはそういうことだったのか、と納得したものだ。 この日は釣りはしなかったが、美しい、おとぎ話のような景色を堪能することができた。 さあ、明日からは釣りだ。ドラゴが水位が高くてもいい釣り場に連れて行ってくれればいいが、と思った。 この2枚はネットから拝借した