お名前:焚き火男
人間是非一夢中
西湖のへら鮒の強い引きが忘れられず、西湖に行った。3度目である。 週末(22,23日)の天気は不安定だったが、日曜の朝9時からは晴れるらしいので、土曜日は民宿丸美に泊まることにした。行ってみると風は梢をしならせ、ヒューゥと音をたてていた。強風のせいでこの日の釣りをあきらめた人がいたそうだ。明日、舟が出せるかどうかは明日の朝に決めよう、ということになった。夕食では日本酒を燗で飲み、部屋ではアンナ・カレーニナを読んだ。 日曜の朝、念願の前浜へ舟を出した。前浜は西湖の東端であり、風は西風なので、風下にあたり、波が高く、とても釣りにならなかった。それでも数時間ねばったが、釣れなかった。 電話して船頭を呼び、湖の反対側の「ユース下」というポイントに移動。ここは風もなく、水面はおだやかで、別天地のようだった。そこからは富士山が綺麗に見えた。 はじめに入った遠浅で釣れず、自力で溶岩帯に移動したが、やはり釣れない。近くの釣り人にはときおりヘラが釣れている。意を決して 「あのー、竿は何尺をお使いですか?」 と聞くと21尺とのこと、ありがとうございますと礼を言って、17尺から21尺に換える。それでも釣れず。使っていたグルテンに集魚材であるスイミーを混ぜたが、それでも釣れず。夕方、ヘラが水面でモジリだした。活性が上がっているようだが、釣れなかった。西湖のヘラのアタリは一目盛りか二目盛り、はっきりとウキがまっすぐに下がるのだが、そのアタリが一度もないのだ。ごく小さなアタリはあるのだが、西湖のヘラのアタリではないと思いつつ、合わせをくれても空振りばかり。 嗚呼、気まぐれな自然の女神よ! しらふの時はちゃんとその法則を守ってくれるが、ワインに酔ったか、それともハンサムな若者でも見かけたのだろうか。そんな時は自分の仕事はほったらかしになってしまうのだから。 ついに4時半の時間切れ。エンジン船に引かれて船着き場へ帰る。富士山の姿がだんだん小山の陰になり、てっぺんだけが見えるようになった。 船着き場で、 「今日は1回もアタリがなかったんだよ。1回もだよ。場所が悪かったのかなあ」 船頭さんは 「そんな日もあるっすよ」 と言ってなぐさめてくれる。 いやあ、本当に、観光に来たようなもんだった。観光に来た人は、綺麗な自然、爽やかな空気、透明感のある湖の水、紅葉の始まりがけの樹木、富士山を体験して、それで喜んでいるのだから、釣り人から見たら信じられない人々なのであった。同じ場所に行って、かたや喜び、かたや落胆しているんだもんね。 |