9月22日(水)。晴れ。 今日は釣りの最終日、ガイドなしの自由な釣りの日だ。N居田君と相談し、午前中はI忽保川という小川でブラウントラウトを釣り、午後はS内川でイブニングまで釣ることになった。I忽保川のことをボクが知ったのはトラウト・フォーラムのブログだった。メンバーの一人であるA藤さんが紹介してくれたもの。この川ではブラウントラウトが繁殖しているという。 I忽保川はほんとうに小さな川で、川幅は広いところでも6メートルくらい。水質はまずまずで、川底には小石が多い。釣り始めたらすぐに24センチくらいのブラウンが釣れ、嬉しくなってしまった。魚体は完璧で、黒点と朱点が美しい。写真を撮る。その後もポイント毎にブラウンが釣れた。みな、綺麗な魚体だった。ブラウンはニジマスとイワナの両方の性格を持っているので、流心だけではなく、流れの緩い深場や物陰にもいる。この川では居てほしいポイントには必ずと言っていいほどブラウンが居た。ボクは7フィートのバンブーロッドを振りながら次々とドライフライでブラウンを釣り、だんだん幸せな気分になっていった。鱒は必ずしも大きい必要はないのだから。天気も良く、空気は爽やかだった。これぞ”鱒釣り”の気分だった。2-300メートルの区間で8匹のブラウンが釣れ、ボクは大満足だった。 最近、外来魚を駆除しようという動きがあるが、釣り人としては、ブラウンが生息するこの貴重な川を残してほしいものだ。 昼食には例によってグルメのN居田君のお勧めで、帯広市内の「はげ天」という店でぶた丼を食べた。有名だそうで、特製ぶた丼を食べたが、とてもおいしかった。肉がミディアムに火を通してあって、少し赤い血がにじんでいた。 さて、午後はS内川だ。川に着いたのは午後3時過ぎ頃だったろうか。初めての場所に入るので、あまり暗くなる前に引きあげないと川で迷ってしまう。ボクは200メートルほど行った地点の良さそうなプール際に陣取り、ライズ待ちをした。N居田君は歩いて先に行った。 プールでは4時半ぎごろからライズが始まり、エルクヘアカディスの14番で3、4匹の小さなニジマスが釣れた。ところがその後が続かない。ライズはだんだん増えてくるのにフライをくわえてくれない。昨日とまったく同じだった。そう言えば昨日は大きなフライばかり使ったが、ボクは魚が小さな虫を食っているような印象を受けていた。まわりを見回すと、12番や14番サイズのカゲロウのスピナーがたくさん飛んでいた。ユスリカも居た。どれを食っているかわからなかい。すぐに暗くなるので気はあせるが、こんな時はストマックを見るにかぎる。そこでCDCのガガンボパターンを使って何とか1匹釣り、ストマックポンプで見てみると、胃内容は大部分が消化の進んだ16-18番サイズのカゲロウだった。そして、1匹だが、ちゃんとウィングが確認できる未消化のカゲロウを見つけた。それはジャスト18番サイズだった。これで決まり!ボクは18番のアダムスパラシュートをティペットに結んだ。すると、途端に釣れ始めたのだった。ボクは釣った魚の数を数え始めた。結局トータルで17匹を釣り、うち3匹はハヤだった。ニジマス14匹の中には35センチの良型が混じった。思いもかけず、北海道でマッチ・ザ・ハッチの釣りができたわけだ。これで昨日のナゾが解けたと思った。 この日の夜は北海道最後の夜である。どこで飯を食おうかと相談になったが、炉端焼き「魚千」にまた行くことになった。行くと、女将がボクの顔を見て、 「あーら、お久しぶり!」 と言う。 「エエッ、おととい来たよ」 と言うと、女将さんはウインクしたように見えた。今回はつぼだい、茄子、ホタテを頼んだ。ホタテの刺身はものすごく身が厚くて、それが10個くらい皿に盛ってあるもんだから、とても食べきれなかった。そこでN居田君がアイデアを出した。残ったホタテを焼いてもらいましょう、焼けば食べられますよ、と。で、頼むと気軽に焼いてくれ、食べると甘く、香ばしく、まさに絶品だった。この日の釣りはほぼ”最高の釣り”と言っていいだろう。もうちょっと大きいのが釣りたかったが、それは言うまい。またの機会もあるだろうし。いい釣り、旨い酒、おいしい料理と三拍子が揃い、今回の北海道釣り旅行を締めくくるにふさわしい日になった。 店を出がけにボクは女将に 「これで北海道旅行は終わりだ。また帯広に来なくちゃいけなくなってしまったなあ」 と言うと 「お待ちしています」 と言ってくれた。ボクは名刺を取り出して女将に渡した。 |