8月14日、曇り。朝4時半ごろ騒がしいので目が覚め、窓から外を見てみると、5時出船の準備をしている人たちがいた。ボクはもう一寝入りして6時半に起きて、朝食を食べて、出船した。F野さんは今日が最終日であり、すでに釣りに出ていた。 腰は痛んだが、座ってオールをこぎ出したら痛みはなかった。F野さんの右横10メートルに舟付けし、釣り始めた。 松原湖は今から約1200年前に八ヶ岳が噴火して、溶岩流によってせき止められてできた湖で、周囲は約2キロメートル、水深7.7メートルで、湖の周囲には背の高い樹木が生え、とても美しい。 気分良く釣り始め、この日の竿は初代孤舟の硬式さざ波11尺の竹竿だ。孤舟の中でも大物に対処できるように作られている貴重な竿だ。エサは両ダンゴで始め、3投め当たりからウキが動き出した。ふわふわと動くが力強い当たりは少ない。それでも釣れ始め、孤舟は大きく曲がった。竹竿という物は魚の動きが敏感に感じられ、釣趣は高いが、魚を寄せてくるパワーはカーボンより弱い。釣り人が少ない松原湖のようなところだと、周りに迷惑がかからず、使いやすい。 昼頃にはF野さんは”帰りたくないなあ、このまま釣り続けていたい”とグチを言いながら引き上げていった。彼はホンモノの釣りキチなのだ。小学生の時からヘラブナ釣りをずっとやってきたのだから。 その後、弁当が届けられ、ボクは一人で悩みながら釣り続けた。もう相談相手はいない。食わせをグルテンにしたり、オカメにしたが、スレ掛かりが増えただけだった。 5時の納竿時間まで釣って、カウントはしていないが、ちゃんと食わせて釣れたのは20-30枚かな。F野さんならこの3倍は釣るだろうと思った。 夕暮れには霧が出て幻想的な雰囲気になった。松原湖には「こだま岩」という沈み岩があるそうで、水面近くに見えるそうだが、何度か探してみたが見つからなかった。 近くに露天風呂があるそうなので、入りに行った。車で5分ほどのところにある町営の「八峰(ヤッホー)の湯」であり、ここまでは宿から送迎があり、サービス券を使えば300円で入れた。行ってみるとお盆で帰郷した人を含めてとてもたくさんの人が居て、露天風呂は良かったが、洗い場には座れず、早々に引き上げてきた。 宿に戻り、夕食となったが、驚いたことに冷酒の4合瓶がでてきた。若女将の話では、「F野さんからです」という。ボクがねじ切り式のキャップを開けようとしたら開かず、彼女に渡したら簡単に開けたのには驚いた。力持ちなのだった。せっかくですからと、1盃めはお酌をしてくれた。 F野さんのお世話をした覚えはなかったが、この前町田で飲んだときにボクが出したので、そのお礼かなと思った。酒は地酒で「くろさわ」という名だった。なかなかに旨い酒だった。この若女将のダンナがケイタ君といい、なにかとボクの世話をしてくれた。彼はこの立花屋の跡取りだとのことだった。うむ、この二人なら立花屋を将来ちゃんと引き継いでやっていけるだろうと思った。