ああ、いい女だなあ、と思う。 その次には、話がしたいなあ、と思う。 その次には、もうちょっと長くそばにいたいなあ、と思う。 第16作『男はつらいよ 葛飾立志篇』から 「男はつらいよ」シリーズ全48作は、作品の数だけ、いろいろなラブ・ストーリーに彩られています。美しいマドンナに一目ぼれする寅さん。女の子へ想いを寄せる、寅さんのおいの満男(吉岡秀隆)。それぞれのマドンナが抱えている恋の悩みなど、人を想うことの素晴らしさを、さまざまなかたちで描いています。 寅さんは年中恋をしていて、年中失恋している。というイメージがあります。その愚かしきこと、の数々を面白おかしく楽しむのが、1970年代から80年代にかけての映画館の観客たちでした。ところがテレビ放送やソフトパッケージにより、繰り返し作品を味わうことができるようになって、受け止められ方が変わって来たような気がします。 第16作『葛飾立志篇』で、小林桂樹さんふんする研究一筋の考古学者・田所先生が、寅さんに「恋愛とは何か」と教えを乞います。 そこで寅さんが恋する気持ちを自分の言葉で言うのがこのせりふです。寅さんはこの後、こう続けます。 「そのうちこう、なんか気分が、柔らかくなってさ、ああもうこの人を幸せにしたいなあと思う。もうこの人のためだったら命なんかいらない、もう俺死んじゃってもいい、そう思う。それが愛ってもんじゃないかい」。 2012年、この言葉がインターネットのフェイスブックにアップされて大きな話題となりました。「いいね!」を押した人が3万人を超えたのです。 おそらく映画を観たことのない、十代の若い女の子が「こんなふうに想われるなんて幸せだろうな」とコメントを寄せていました。こうしたコメントは数千にも及び、最終的に12万もの人が「いいね!」と、このことばに共感していました。 寅さんがなぜ恋をするのか? その理由がこのせりふに凝縮されています。「それが愛ってもんじゃないかい」と断言する寅さんに、田所先生は「君は、ぼくの師だ」と感激します。 もしも現実に寅さんがいたら、きっと平成を生きる若い女の子たちの「理想の男性」になっているかもしれません。 × × 誤字脱字写し間違いあります。 |