3月29日土曜日、ボクはある男と朝10時に小川橋で待ち合わせをしていた。狩野川を案内してくれるというので、期待しながら小川橋に向かった。
ちょっとした経緯があってね。その前の週、狩野川が釣れないので困ったボクは”狩野川のことなら森村さんに聞けばいい”ので、彼に電話してポイントを教わって釣りをしたが、釣れなかった。その報告を兼ねて電話したとき、彼が、
「それでは、一度狩野川をご案内しましょう」
と言ってくれたのだ。森村さんとは20年以上の長い付き合いだが、一緒に釣りをしたことはない。釣り場というのは電話で聞いただけでは正確には伝わらないもので、一緒に行ってくれるのはとてもありがたい。
で、狩野川本流、大見川の3-4カ所を一緒に釣った。聞くと、彼はボクより13歳若く、川を歩くのも速いし、安定していた。
結論を言うと、きわめて内容の濃い1日になった。彼はピンポイントで魚が付くところをしえてくれ、
「あの石の3メートル下に沈み石があって、その前に魚が付いています」
「あの3つの石の間の筋を釣ってください」
ボクが指さしてあそこの流れはどうかなと聞くと、
「そこには魚は居ません」
などなど。彼の答えは明快で、迷いがないのだった。すべてこれまでの彼の釣りの実績から導き出された答えであり、”神のお告げ”のようにボクの耳には聞こえたものだった。また、それぞれのポイントのこの時期・時間に合わせたフライももらった。
ハイライトはボクも何度か行ったことのポイントで、彼が先に行き、急にボクを呼んだ。
「川野さん、ライズしてますよ!」そこに行くと、見事にライズしていて、3-4匹は居るようだった。
「コカゲロウに出ているのであと何分ライズが続くかわかりません。すぐ釣ってください」
釣るのが難しい流れではあったが、ボクは一番大きそうなヤツを狙ったがなかなかフライには出なかった。すると、森村さんが、
「スピナーパターンは持っていませんか?」
と聞く。ボクはフライボックスを取り出して探すとアカマダラのスピナーが見つかった。ちょっと大きいかなと思いながらも使って見ると、ある時点でヤツはヘッドアンドテールでフライをくわえ込んだ。予想の場所とすこし違ったので、合わせが一瞬遅れたがさいわい鉤掛かりした。何度も走り、落ち口の強い流れに行ったので止めようとしたときに鉤が外れてしまった。
「いい魚でしたねえ、9寸以上はありましたね」
となぐさめてくれた。
すべて彼の言うことは正しかった。ダンを食っていてもウィングがペッタリと水面に付いている状態(ドラウンドダン=溺れた、落ちこぼれのダン)を好んで食うことはボクも知ってはいたが、実体験がないと使って見ようという気にならないのだった。彼の判断は正しく、決断もはやかった。見事なガイドであった!
また、彼は釣り日記を付けていて、その日の状況を細かく記録していて、今日ボクを案内するに当たって、過去3-4年の釣り日記を読み返して、この時期のいちばんいい場所にボクを連れて行ってくれたそうだ。
以前から森村さんは”生まれながらの釣り人”、”名人”と思ってきたが、今回一緒に釣って、その実力を目の当たりにした感じだった。イッチェンのスキューズもさぞやと思わせるものがあった。名人というものはセンスだけでなれるものではない。日頃の精進が名人を育てるのであった。
森村義博さん、ガイドありがとう。
今日の釣りは長く記憶に残ることでしょう!