このところ狩野川のあるポイントに通っているが、25日にも行ったが、まったくライズがなかった。
そして29日にまた行った。7回目である。この日は朝から曇りで、午後は雨の予報だった。曇りや雨の日は魚の警戒感が薄れると共にカゲロウの羽化が起こりやすくなると言われていて、晴れが好きな僕としては、異例なのだが、行ってみることにした。水温は13.8℃と急速にあがってきていた。
11時現場到着、12時より小雨が降り始めたが、ハッチはない。雨はしょぼしょぼと降り続け、肌寒くなっていった。
4時半、退屈になり、相談もあって森村さんに電話して話しているとライズが起こった!森村さんと釣りに行くと不思議なようにライズに遭遇すると皆言うが、僕もそう思う。だが、電話しただけでライズがおこるとは!彼の声がライズを呼ぶなんて、もはや神がかってきているんじゃなかろうか!
すぐに電話を切ってライズを観察する。そのアマゴはあと2回ライズした。水面のエサをとったあと、スウーッと水面下にゆっくり沈んでいくアマゴの全身が水中でよく見えた。25-6センチメートルの良型の魚だった。流下水生昆虫ははっきりしなかったので、18番カディスを結んだ。
僕は彼の横から静かに近づき、彼まで4メートルまでは近づいた。これ以上近づくと気付かれそうだった。そして第1投目はやや短く、フライはライズの手前を流れ、2投目は遠すぎてライズの向こう側を流れ、アマゴは出なかった。そしてすこし時間をおいて3投目は2つのキャストの中間でやや上流寄りにフライを着水させ、流すと、バシャットと水しぶきが上がってフライに出て、アマゴは空中に全身で飛び上がり、僕の右手は反射的に合わせをくれていた。僕は”鉤に掛けた!”と確信した。ところが、竿には生き物の手応えはなく、空振りだった。アマゴは逃げ、水は何事も無かったかのように音もなく流れていた。
僕は信じられない物を見た感じで、しばし呆然としていた。これまで30何年間ヤマメ/アマゴをドライフライで釣ってきて、魚体が空中に躍り上がったことは2~3度くらいしかないが、いずれもフライをしっかりくわえていた。ところが今回は完全に空振りだった。ということは、アマゴはフライをくわえなかった、つまりくわえ損なったんだと思う。アマゴはフライに突進したが、わずかなドラッグがフライにかかって、予定の場所にフライがなかったので、勢い余って空中に出てしまったということなのだろう。
ライズしていた流れは水面こそ平坦だが、流速はかなり早く、ゆるいカーブになって流れている。そんな流れでライズしているアマゴは全速力で水面のエサに突進しないとエサにありつけない。彼はフライが視野に入って流れてきて、本物の餌だと確信し、水面に突進したが、捕食の瞬間にフライにわずかなドラッグがかかってフライをくわえ損なったんだろう。 と、考えてみたが。アマゴがどうしてあんな餌の取りにくい場所でライズするのか、この疑問は解決されないままである。これまでたくさんの釣りの本を読んだし、スキューズの「フライに対する鱒の行動」にもこの疑問に対する答えは書いていない。
この場所は特殊な状況のような気がしている。だが、厳然たる事実であり、アマゴがそんな場所でライズするのは必ず理由があるはずなのだ。それを知りたいのだが・・・
釣り場を引き上げるとき、すぐ下の落ち込みに突き出ている岩が顔のような形をしていることに気がついた。僕は「悪魔岩」と勝手に呼ぶことにした。釣り人を魅惑して引きずり込んでは狂わせて、ニタリと笑っている悪魔である。