第二章 気づかせること 若手にいかに声をかけるか そして北京五輪の本選に臨んだものの、準決勝、三位決定戦で敗れ、屈辱的な四位に終わった。予選期間中はコミュニケーションがとれていた若手選手と、溝ができてしまったのが原因だった。 若い選手との接し方は難しい。「監督や先輩が白といったら、黒いものも白く見える」と言われたのは、私たちの世代までだった。最近の若い選手たちは、トップダウンの形式だけではうまくいかない。 メンバーには岩瀬仁紀(中日)、上原浩治(当時巨人)、和田毅(当時ソフトバンク)と2004年のアテネ五輪を経験した選手がいた。一方で田中将大(当時楽天)、ダルビッシュ有(当時日本ハム)、涌井秀章(当時西武)と、若い選手も加わっていた。 チームのメンバーの年齢層が広いなかで、キャプテンである私が若い選手たちに配慮できずにいたのだ失敗だった。私の中に油断があったのだと思う。前年の2007年に行われた予選では、チームがうまくまとまっていた。本大会出場を決めた直後、星野監督を胴上げした時には、選手全員が輪の内側を向いていた。 最近では輪の外側を向いて、テレビカメラに映るように万歳しようとする選手も多い。ところが、この時は全員が少しでも星野監督に触ろうとしていた。 テレビを見ていた知人からは「久しぶりに気持ちのいい胴上げを見た」と言われた。私のなかにもいいチームになってきたという実感もあったし、本大会は予選の流れのなかでいける。「これで大丈夫」という思いが、どこかにあったのかもしれない。 ところが、実際には故障者が出たり、村田修一(当時横浜)が体調を崩したりと、本大会では少しずつチームの歯車が狂い始めていた。 そうした状況のなかで、キャプテンとしてのコミュニケーションのとり方が、一方通行になってしまった。特に若い選手には、結果的に自分の考えを一方的に押しつける形になってしまった。ミーティングで話す時にも「こうしていこう」「はい」と、自分の考えを伝えるだけになっていた。 キャプテンを務める私の方が、若い選手たちよりも経験が多い。当然、伝えたいことも多くなるし、つい一方的なコミュニケーションになりがちだ。 それでは、言われた方は不満を抱いてしまう。なるべく若い選手たちが気持ちよく試合に出られる状況を作りたかったのだが、若い選手だけで固まってしまうという状況を招いてしまっていた。 チームのなかに年齢層があるのだから、こちら側から意見を求める姿勢が必要だったのかもしれない。例えば、田中に対して「田中、どう思う?お前はどうしたい?」と聞くことが必要だった。 年齢は関係なく、みんなの前で発言させることで、若い選手たちも口に出したことを守らなければならなくなる。チームの一員としての責任感も増したはずだった。 ひとつのチームが、ずっといい状態で進むことは、まずあり得ない。チームが悪い状態になった時に、どうやってよい方向にむけるようにするのかが、リーダーの仕事だともいえる。 そういう意味では、リーダーとしての私の技量のなさが招いた敗戦だった。チームが悪い状態になっていることに気づかなかったわけではない。気づいていたけれど、よい方向に導くことができなかったというのが、正直なところだった。 今振り返ると、日頃からのコミュニケーションが足りていなかった。ダルビッシュなどは頭がいい選手だから、こちらが歩み寄って話していれば、きっとこちらの考えも分かってくれていたはずだった。大会が進むなかで若い選手ばかり固まらせてしまったことで、「これはなんとかしないといけない」と思った時には、私の方から歩み寄ることは難しくなってしまっていた。 日頃から「ダル、調子はどうや?」といろいろな話をしていれば、ダルビッシュももっと代表というチームのなかで自分を出せたはずだ。若い選手に気兼ねしたことで、彼らが思い切って力を発揮する環境を作ることができなかった。今考えると、やはり私の歩み寄りが足りなかった。 北京五輪で敗退した夜、私はダルビッシュの部屋をノックしていた。ダルビッシュの部屋には涌井もいた。北京五輪を最後に代表からの引退を決めていたが、日本代表のキャプテンを経験した者として、どうしても伝えておかなければいけないことがあったからだ。 彼らも代表として戦って、嫌な思いをしたのは分かっていた。それでも、翌年にはWBCが控えていた。間違いなくこれからの日本を背負っていくエースたちに、北京での敗戦で「日本代表はもういい」と思うことだけはやめてほしかった。 「北京では嫌な思いをしたかもしれないけど、やっぱりお前らはいいピッチャーだから、こうやって日本代表に選ばれている。来年のWBCに選ばれるんやったら、胸を張って行ってくれよ」 本人たちがどう思ったか分からないが、翌年、二人はWBCに出場して、世界一を経験することができた。本当によかったと思っている。 × × 誤字脱字写し間違いあります。 |