16日水曜日、この日は定休日であり、伊豆地方は風もないという予報であり、ソレッとばかりに狩野川に行った。その難しいライズの場所に着いたのは10時ごろで、すでにライズが始まっていた。
そこの水面はフラットで、ゆっくりと流れ、ライズ地点は岸からかなり遠かった。ほとんどのライズは30ヤード以上離れていて、たまに近くでもライズするが、それでも20ヤード近く離れている。岸のすぐ後ろには土手があってバックキャストの余裕はあまりない。この場所用に5番の9フィートの竿を持っていったが、それでも届くライズは限られていた。ライズは散発的に起こり、場所も少しずつ違い、ほとんどがディンプル・ライズだった。ここは風がある時にはライズは少なく、風がやんで水面がカガミ状態になるとライズが始まるのだった。
キャストも難しかったが、それ以上にフライの選択が難しかった。数日前、N居田君に
「何食ってるんだろうねえ、誰かストマックやった?」
と聞いたら
「わかりません。誰も釣れてないんですから」
とのことだった。
この日、昼ごろにはガガンボがかなり流れ、数匹のオオクマを見たし、ヒラタらしい14番サイズのカゲロウやコカゲロウも飛んだ。だが、大きな虫がバタバタしながら水面を流れても食われておらず、僕はガガンボ、カゲロウのイマージャー、フローティングニンフ、スペントパターンの18-20番を取っ替え引っ替え使ったが、釣ることは出来なかったし、フライに出すことも出来なかった。ティペットを7Xに落としたが、結果は同じだった。
あまりの難しさに僕は嫌気がさし、場を休ませて、夕方再チャレンジすることにした。
そして、4時半ごろだったか、ユスリカのイマージャー・パターン(透明なウィング付き)18番を使ってみたら、初めてフライに出た!だが、すっぽ抜けだった。やっとフライに反応したので、このフライを使い続け、さらに2回フライに出たが鉤掛かりしなかった。
夕闇がせまってきていた。が、無風であり、ライズは続いていた。そして、何度も投げなおしているうちにバシャンとフライに出た!やっと鉤に掛けたのだった。走る魚を細いティペットを気にしながらも寄せてくる。僕は水に入り、ランディングネットを差し出したとき、魚は暴れ、バレた!ネットの1メートル先でバレたのだった。ウウーン、僕は天をあおいだ。
バレる寸前に魚の側面がよく見えた。魚は25、6センチメートルほどで、口先は尖り、体高があって、体側にはパーマークはなく、全体的にまぶしいほどに銀色だった。間違いなくツマグロアマゴだった。ティペットを見るとフライは付いていた。やはり、鉤掛かりが浅かったようだ。
時計を見ると、5時50分だった。もうかなり暗く、フライも見えないので釣りを辞めることにした。まだ、多少のライズはあったんだが・・・。
精魂使い果たし、ぼうっとした頭で考えた。僕は魚を手にはしていないが、〈あれは釣れたんだ〉と思うことにした。釣れたのであればメデタイので、夕食には鰻を食うことにした。よく行く「柳光亭」で鰻丼の梅を食べた。空き腹に甘く香ばしい鰻が旨かった。
〆に何か書こうかと思ったが、しゃれた言葉が出てこない。
クレイジー・フライフィッシャーマンの春の日の一日であった。