昭和二十年三月の激しい空襲は、名古屋市内にある東邦高の前身、東邦商にも及んでいる。炎が迫るなかで、教師と職員らが<必死に>守ったものがあった。野球部が勝ち取った春の「選抜野球大会」の優勝旗だ。学校の『野球部史』などによると、学校の方は日々、防空壕(ごう)を移動して、旗を守り抜いたのだそうだ ▼選抜大会は東邦商が優勝を果たした翌年から、戦争の影響で中断を強いられていた。大会が再開される日のために、学校の関係者は旗を守っていた ▼戦後最初の大会の開会式で、東邦商が無事に旗を返還すると、ファンは驚き、感激したという。平和な時代が戻って来た。その象徴に見えたことであろう ▼東邦が昨日、習志野との決勝戦を見事に制して、平成最後となる春の選抜大会で優勝を果たした。攻守にすきがなく、まとまりのある好チームであった。平成元年の大会に続く優勝という快挙だ ▼巡り合わせを感じる。かつてファンが、その姿に野球を楽しめる喜びを見た東邦である。戦争に巻き込まれることなく終わる平成。高校野球を楽しむことができた時代の最初と最後に、優勝旗を掲げるのに、ふさわしい学校であろう ▼平和への願いがこもった新元号も明らかになったばかりである。優勝旗を持つ選手の姿と笑顔。次も野球が楽しめる時代であってほしいという願いを象徴するようで、深い感慨を覚える。 × × × 中日新聞のコラムです。 ちょっと いいと思ったのでコピー貼り付けました。
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