東京でもって迷子になったらな、 葛飾の、柴又の、とらやってダンゴ屋を訪ねて行きな。 第7作『男はつらいよ 奮闘篇』から 寅さんは心優しき人です。困っている人がいたら、黙っていられません。とにかく行動の人です。第7作『奮闘篇』で寅さんは、静岡県沼津市の中華そば屋でひとりの少女に出会います。彼女は、東北から出てきた太田花子(榊原るみ)。寅さんは、知的障害のあるその身を案じて、奮闘努力します。 寅さんが花子と出会った直後、沼津駅前交番で、花子は堅物のお巡りさん(犬塚弘)に、矢継ぎ早に質問されて困っています。前を通りかかった寅さんが、すかさず間に入って、花子が近所のバーで働かされていたことを聞き出し、おばあちゃんの住む青森へ帰郷させることにします。 山田洋次作品では常連のクレイジーキャッツの犬塚弘さんが、融通が利かなそうな巡査を好演しています。花子に青森までの交通費を出そうとしますが「月給日前だからなぁ」と巡査の財布の中身では足りません。そこで寅さんがカッコ良く、自分の札入れを差し出します。ところが、例によって五百円札3枚しかありません「私も月給日前ですからね」と寅さんも言い訳するのがおかしいです。 この場面は、沼津駅前に作られた交番のロケセットで撮影されたそうです。終電を待っての撮影前、近所の旅館で、渥美清さん、榊原るみさん、犬塚弘さんが、台本を読みながらリハーサルをしたそうです。 犬塚さんによれば、山田監督は三人の会話を聞きながら、「こういうときに、この人はこう言うだろうか?」とせりふを吟味して、三人の動きを練り上げていったそうです。「いかに自然に見えるか」。山田監督の丁寧な演出に、感動されたそうです。 駅の改札で花子にかけたのが本編のことばです。「この家に訪ねて行きな。そこでな、寅ちゃんに聞いて来たって、そう言えよ。家のもの親切にしてくれるから」。 そのことば通り、花子のために「自分には何ができるか?」を、とらや一家も懸命に考えて、自分の間尺ですが、それぞれ行動するのです。「男はつらいよ」が多幸感にあふれているのは、そのまなざしの優しさ、温かさに根ざしているのです。 × × 誤字脱字写し間違いあります。 |