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長旅をして来た人は、優しく迎えてやらなきゃなぁ。 第12作『男はつらいよ 私の寅さん』から 寅さんは年中旅暮らしです。いつも、柴又でさくらは旅先の寅さんを案じています。第8作『寅次郎恋歌』でさくらが、こんな本音を漏らしたことがあります。「一度はお兄ちゃんと交代して、あたしのことを心配させてやりたいわ」。 寅さんは孤独な旅人ですが、このことばで、さくらの自分を思う気持ちを知り、その孤独が少しは癒されたのではないかと、ぼくが感じる名場面です。 でも、このさくらの「心配させてやりたいわ」ということばが、現実のものとなったことがあります。第12作『私の寅さん』で、さくらと博が、おいちゃんとおばちゃん孝行のため、九州旅行に出かけるエピソードがあります。その旅行の前の日に寅さんが帰ってきて、渋々留守番をすることになります。 このときは、いつもと立場が逆転してしまうのです。寅さんは一日一回、旅先の家族からの電話を心待ちにしています。自分では半年も、ハガキ一枚、電話の一本もよこさないときがあるにもかかわらず、です。 昭和四十年代当時、市外電話は夜八時過ぎると安くなるので、おのずと遅くなります。待ち構えていた寅さんは「日が暮れる前から、ずっと電話機の側でもって座ってたんだぞ」と思いの丈をぶつけます。これでは、さくらたちもたまりません。 でも寅さんにしてみれば、旅先の木賃宿での独り寝には耐えられても、家族と過ごそうと帰ってきての故郷での一人はつらいのだと思います。 結局、家族は予定を切り上げて早く帰ってくることになります。そうなると張り切るのが寅さんです。タコ社長と源ちゃんに手伝わせて、お昼ご飯を手際よく作ります。さらにお風呂も沸かして、迎え入れの準備は万端です。荷物を 抱えて帰ってくるさくらたちを「迎えるこの言葉が大切だな」と「寅さんのアリア」が始まります。 「長旅をしてきた人は、優しく迎えてやらなきゃなぁ」。立場が逆転した寅さんが、かくあってほしいと思っていることを、てきぱきと実践する姿は、とても感動的です。このことばは、寅さんの本音が垣間見える名言なのです。 × × 誤字脱字写し間違いあります。 |