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自分の気に入った作品は人に渡したくない。 ましてや気に入らない作品を売るわけがない、 だから金が全然入らない、これが芸術家ですよ。 第12作『男はつらいよ 私の寅さん』から 寅さんは、本質的なことをズバリ分かりやすくことばにして、教えてくれる人です。寅さんが芸術家について、ここまで理解しているのには理由があります。 第12作『私の寅さん』で、寅さんは小学校の同級生、デベソこと柳文彦(前田武彦)と再会。久しぶりに旧交を温めます。酔った勢いで、柳の実家に遊びに行くと、部屋にはカンバスに描きかけの絵画。ふざけているうちに、その絵を台無しにしてしまいます。 その作者が、文彦の妹で画家のりつ子。演じるは銀幕の名花、岸恵子さんです。りつ子は自分の作品がメチャクチャにされたことに激怒します。寅さんと最悪の出会いをしますが、二人は次第に仲良くなっていきます。 そうです。意中のマドンナが画家だったということで、寅さんはがぜん、芸術には疎くても、芸術家に対する理解者となるわけです。 あるとき、パン屋で、りつ子が財布を忘れたことに気づきます。そこで、寅さんはスッとお金を出します。感激したりつ子は「寅さんは、私のパトロンね」と言います。その晩、とらやの茶の間で芸術談義が交わされるのです。 寅さんは「明日のパンにも事欠くような貧しさと闘っているんだなぁ」とりつ子について語ります。芸術家はみんな貧しいのか?お金持ちだっているだろう。と家族の皆がそれぞれの意見を言います。 寅さんの一家は、いつもこうして、いろいろな話をします。「幸せについて」「恋について」などテーマはさまざまです。 寅さんの「これが芸術家ですよ」に対してさくらは、自分は芸術家ではないと前置きして、内職で仕上げた洋服が気に入ったときは、お客さんに渡したくないことがある、と話します。 それを聞いた寅さんは「さくら、お前、芸術家だよ」。家族はどっと笑い、映画館にも大きな笑いがあふれます。では的外れかというと、そうではなく、実は寅さんは、芸術家のことを理解しているのです。 寅さんは理屈ではなく、経験に裏打ちされた直感で、こうした本質をことばにすることができるのです。 × × 誤字脱字写し間違いあります。 |