私はずっと車寅次郎としてこの地球に止(とど)まりたいのですが、 そうはいきません。 第21作『男はつらいよ 寅次郎わが道をゆく』から 葛飾柴又帝釈天にUFOが飛来し、日本中が騒然とするなか、とらやの二階から寅さんが下りてきます。銀色に輝くダボシャツに、ラメの入った腹巻、ギンギラギンのジャケットを身にまとっています。トランクもジュラルミン製で、なぜか宙に浮いています。そこで「みなさん、私は、寅次郎ではありません」と衝撃の告白をします。 第21作『寅次郎わが道をゆく』の「寅さんの夢」は、当時大ブームだったSF映画のパロディーです。ちまたにはピンク・レディーの「UFO」が流れていました。第21作が公開された、1978年夏には、ジョージ・ルーカス監督の『スター・ウォーズ』が、映画界の話題を独占していました。スティーブン・スピルバーグ監督の『未知との遭遇』も、この年の春の公開でした。 さて、「寅さんの夢」は、毎回恒例、フアンのお楽しみとなっていました。最初が第2作『続男はつらいよ』での、「瞼の母」をめぐる夢。続いて第5作『望郷篇』の「おいちゃん危篤」騒動などがありましたが、いずれも物語の伏線として描かれていました。本篇とは関係なく、寅さん一座総出演による「夢」は、第9作『柴又慕情』の「渡世人・寅次郎」から定着しました。海賊映画や西部劇、スピルバーグの『ジョーズ』のパロディーもありました。 「寅さんの夢」は、山田監督も敬愛してやまない、喜劇の神様こと斎藤寅次郎監督が、昭和20年代から30年代にかけて、連作していたアチャラカ喜劇の味わいがあります。 星の世界に帰るため、家族に別れを告げる宇宙人・寅さんを、渥美清さんは大真面目に演じています。「おかしいことを面白おかしく演じてはいけない」は喜劇の鉄則ですが、渥美さんの無表情な芝居、摩訶不思議な手の動き、これぞアチャラカ喜劇の味です。 「男はつらいよ」シリーズには、「夢」のアチャラカ喜劇、タイトルバックのドタバタ喜劇、本篇の人間喜劇、あらゆる喜劇映画の手法が織り込まれています。だからこそ、今なお、多くの人をさまざまな笑いで幸福な気分にしてくれるのです。 × × 誤字脱字写し間違いあります。 |