貧しいね、君たちは。二言目には金だ。 金なんかなくたっていいじゃないか、美しい愛さえあれば! 第43作『男はつらいよ 寅次郎の休日』から 寅さんは年中恋をして、年中振られている。そんなイメージがありますが、シリーズを見てゆくと、さまざまなかたちの愛が描かれています。 自分の気持ちを伝えることなく、そっと相手の幸福を願うだけのこともあれば、困っている相手のために、奮闘努力することもあります。でも、寅さんは自分の恋する気持ちを、一方的に相手に押し付けることはしません。また、相手から何かの見返りを得ようなんて虫の良い考えもありません。人を想うことについては、寅さんの右に出る者はいないと思います。 しかし「恋する気持ち」への理想は、いつも燃え立っています。自分のことは棚に上げて、恋に悩む若者たちへの応援のことばは、実に情熱的です。 第43作『寅次郎の休日』は、寅さんのおい・満男(吉岡秀隆)が及川泉(後藤久美子)と二人で、九州へと旅立ちます。この場面に徳永英明さんの「JUSTICE」が流れるのですが、二人の気持ちに寄り添うようで、何度見ても心揺さぶられます。さて、すわ駆け落ちか?と気が気でないさくらと博ですが、寅さんは若い二人を全面的に応援します。 理想論の寅さんに対して、「金を持っていない」からと満男について現実的なことを心配する博。二人の見解の相違は、毎度のことですが、寅さんは「貧しいね、君たちは」と反論します。 寅さんはしばしば「懐が旅先だから」と言います。お金とは縁遠いようですが、心は豊かです。「金なんかなくたっていいじゃないか」。お金よりもっと大切なものがあると、寅さんは、まるで青春小説のように、愛についての理想を語ります。「美しい愛さえあれば!」寅さんにとって、人を愛する気持ちは「美しい」ものなのです。どんなに貧しくても、愛する人と一緒であれば、それでいいじゃないか。これが寅さんの恋愛の理想なのです。 考えてみれば、第1作でさくらが博との結婚を決意したのは、失恋と勘違いして田舎へ帰ろうとする博を追い掛けて、さくらが同じ電車に飛び乗ったのがきっかけです。 満男が泉の新幹線に乗ったのも同じことなのです。それを知っている寅さんだからこそです。青春の応援者・車寅次郎!素晴らしいと思います。 まるで落語の名人芸のような渥美さんの語りの見事さ。受け売りではありますが、このことばに寅さんの後悔と反省、そして定住への憧れを感じるのです。。 × × 誤字脱字写し間違いあります。 |