上毛新聞 2013年1月1日付 朝刊(共同) 【不安と希望 素直のままに】 東日本大震災から2年近く、被災地から離れた土地では、早くも震災の記憶が風化し始めたいう声も聞かれる。しかし、津波の傷痕は深く残り、東京電力福島第1原発事故の収束も見えない。「震災を風化させない」。被災者自身がその苦しみや悩みを、映像や音声表現を通じて伝え続けようとしている。 満開の桜の下、公園ではしゃぐ女子高校生たち。並んだ屋台を背に、赤いりんごあめを手にして笑っている。そこに静かなナレーション。 ―ここには笑顔の数と同じくらい、いや、それ以上に、不安や苦しみがあった― 福島県相馬市の県立相馬高校放送局が昨年6月に制作した映像ドキュメンタリー「Girl’s Life in Soma」の冒頭シーンだ。 東日本大震災の後、相馬高校放送局は2年生の鈴木ひかるさん(16)を中心に被災地の姿を発信し続けている。 震災後最初の作品は、2011年6月に制作した音声ドキュメンタリー。生徒たちの家族に取材し、放射能の不安や国への怒りをストレートに表現した。 「あの時は後ろ向きで、全然将来に希望が持てない状態でした」と鈴木さんは振り返る。作品は最後まで暗いトーンだ。 1年後、映像作品のテーマに選んだのは、相馬高校の女子生徒たちの日常だった。笑顔を見せながらも、ふとした拍子に不安を覚える様子を赤裸々に写した。 「私たちが日々感じていることを、大人たちは無駄にしないでほしい」という思いを込めた。 自分自身の健康不安に加え、将来、子どもを産んだとき、その子が健やかかどうかという心配も消えない。冒頭シーンの後には、インタビューを受けている友人が突然泣き出すシーンが映し出される。 それでも「この作品は前向きに終わると決めていた」ラストシーンは生徒の笑顔とともに、少し明るい声のナレーションでこう結んだ。 ―放射能は本当は怖いけど、怖くない。何が何でも楽しく生きてやる。だって、女子高生だもん― 鈴木さんはこのナレーションに願いを込めた。「強がりに聞こえるかもしれないけど、『負けない』と声を上げることで、たくさんの人が耳を傾けてほしい。そして、私たちの不安を解決していってほしい」 鈴木さんたちは次作以降、津波被害もテーマの一つと考えている。福島は原発事故ばかり取り上げられ、津波被災地に目が向かられることが少ないからだ。福島に生きる若者にしか持てない視点で、今年も発信を続ける。 〈読者投稿〉 私がこの記事を選んだ理由は、共感とともに勇気をもらえたからだ。 東日本大震災で被害にあった福島県相馬高校の女子高校生、放射能に対する自分自身の健康不安に加え、将来、子どもを産んだときの不安が消えないという逆境をのりこえ、「何がなんでも楽しく生きてやる」という前向きな考え、またその言葉に対し、「強がりに聞こえるかもしれないけど、『負けない』と声を上げることでたくさんの人が耳を傾けてほしい」という言葉に共感するととも に勇気をもらったからだ。 私は昨年、脳の病気にかかり、これからの目標を見失い、将来への不安もあった。しかし周りの方々の支えで治療の方法が見つかり希望の光が見えた。 この経験は私を強くさせてくれた。そして周りの方々への感謝を胸に彼女たちと同じく、これからの毎日を楽しく生きてやる、と私は思った。 桐生勧里さん 16歳 群馬県 × × 誤字脱字写し間違いあります。 |