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それを言っちゃおしまいよ。 『男はつらいよ』各作から 寅さんの名ぜりふは数あれど、その筆頭にあげられるのが、この言葉です。 シリーズ第11作『寅次郎忘れな草』の最後で、リリー(浅丘ルリ子)の結婚相手のすし職人を演じた毒蝮三太夫さんは、浅草の竜泉寺育ちの下町っ子です。 2013年の1月、銀座シネパトスでの上映特集「新春!みんなの寅さんまつり」のゲストに来て頂いたとき、下町と寅さんについての話の中で「それを言ったらおしまいだよ」は下町言葉、と話してくださいました。 寅さんを演じた渥美清さんは、上野車坂の生まれです。十代から浅草や上野の盛り場で過ごした下町っ子です。寅さんの「それを言っちゃおしまいよ」は、渥美さんが育って来た下町の人間関係において重要な言葉だと、第36作『柴又より愛をこめて』などに出演された中本賢さんに、12年夏、文化放送「みんなの寅さん」にご出演頂いたとき、伺いました。 浅草生まれ浅草育ちの中本さんは、人は誰しも触れてほしくない秘密や過去があるが、下町の共同体の中では、その人が言われたら困ることや、秘密には絶対に触れてはいけない、という不文律があった、と話してくれました。 人を傷つけるだけでなく、その人が居たたまれなくなってしまうからです。中本さんは「身につまされる」ともおっしゃっていました。 なるほど「男はつらいよ」で、寅さんがこのことばを言うときは、茶の間でのけんかのシーンです。しかも、よく観ているとおいちゃんに対して言っているのがほとんどです。 第8作『寅次郎恋歌』では、森川信さんふんする初代おいちゃんが思わず言った「俺が不幸なのはな、みんな手前のせいだぞ」に対して、寅さんが「それを言ったらおしまいだよ」。売り言葉に買い言葉で大げんか。そのあげくに寅さんは、居たたまれずに、家を出ていってしまいます。 おもしろおかしく聞こえるこのせりふは、下町育ちの寅さんにとっては、NGワードにたいする、最後のことばなのです。だからなるべくは言いたくない、と思っているに違いありません。 × × 誤字脱字写し間違いあります。 |