俺か? 恋をしていたのよ。 第15作『男はつらいよ 寅次郎相合い傘』から 「男はつらいよ」を見ていて、いつも出てくる役者さんを見つけると、うれしい気分になります。旅先で寅さんが泊まる宿の仲居さんを演じている女優が気になっていたら、相当のフアンです。十中八九演じているのは、谷よしのさん。松竹の大部屋俳優さんです。谷さんは第1作では柴又町内のおかみさん、第5作『望郷篇』の冒頭の宿の仲居さんを演じています。第17作『寅次郎夕焼け小焼け』では、とらやの客で「お団子おいくら」と聞くと、寅さんに「二百万円」と言われビックリ。 谷よしのさんは、木下恵介監督や小津安二郎監督の作品にも出演しているベテラン。「男はつらいよ」には36作品も出演されています。第47作『拝啓車寅次郎様』では、琵琶湖の民宿のおばあちゃんで登場。寅さんは「おばあちゃん、世話になったね。これは少ないけど、どうもありがとうよ」と心付けを渡します。映画史を支えてきた名脇役へのリスペクトを感じます。 谷よしのさんと並んで印象深いのが、大杉侃二朗(かんじろう)さんです。第8作『寅次郎恋歌』で、酔った寅さんがとらやに連れて来た昔の仲間を演じている方です。第18作『寅次郎純情詩集』では、長野・別所温泉で、寅さんが再会する、坂東鶴八郎一座の一人として出演。宴会のシーンで「お掃除、お掃除、お掃除よ」と姉さんかぶりで「お掃除芸」を披露してくれます。 大杉さんは戦前から松竹映画に出演されていて、1941年の清水宏監督の『簪(かんざし)』でその姿を確認することができます。 数ある大杉さんの出演映画で、ぼくの印象に残っているのが第15作『寅次郎相合い傘』です。函館港のラーメン屋台で、寅さんとリリーが二年ぶりに再会します。あれからいろいろあったリリーは寅さんのことが懐かしくてたまりません。「あんた、あれから何してたのよ」と問われた寅さんは「え、俺か? 恋をしていたのよ」。寅さんとリリーの楽しい日々がここから再開します。 そのラーメン屋台のおやじさんを演じているのが、大杉侃二朗さんなのです。 おなじみの役者さんを見つける楽しみもまた、映画の味わい方の一つだと思います。 × × 誤字脱字写し間違いあります。 |