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〈特別篇〉寅さんの“家族の”ことば・さくらのことば 一度はお兄ちゃんと交代して、あたしのこと、 心配させてやりたいわ。 第8作『男はつらいよ寅次郎恋歌』から 「男はつらいよ」は、兄を想うさくらと、妹の幸せを願う寅さんの「あにいもうとの物語」です。寅さんは旅先で、いつも故郷・柴又に住むさくらに思いを馳せ、ハガキを出したり、ときには電話でその元気な声を聞いて安心しています。望郷の念やまず、矢も楯もたまらなくなって、柴又に飛んで帰ってきてしまいます。 寅さんが、気ままな旅暮らしを続けていられるのも、可愛い妹のさくらが柴又で、自分のことを案じてくれているからだと、思っているに違いありません。 一方のさくらも、いつもお兄ちゃんのことを思っています。柴又を出たきり、半年も、ときには一年も帰ってこない寅さんのことを、片時も忘れていないのが、さくらです。 第6作『純情篇』のラスト、夕子(若尾文子)に失恋した寅さんを、夜の柴又駅のホームまで見送りに来たさくらは「もうお正月も近いんだしさ」と、このまま留まって欲しいと言います。その思いを断ち切って旅立つ寅さんに、さくらは「つらいことがあったら、いつでも帰っておいでね」と精一杯の気持ちを伝えます。たった一人の肉親である寅さんのつらさ、悲しさを理解して、受け止めているのは、さくらなのです。 第8作『寅次郎恋歌』で、寅さんがさくらに、こんなことを聞きます。「兄(あん)ちゃんのこんな暮らしがうらやましいか」。さくらは頷いて「一度はお兄ちゃんと交代して、あたしのこと、心配させてやりたいわ。寒い冬の夜こたつに入りながら、『ああ、今ごろさくらはどうしてるかなぁ』って、そう心配させてやりたいわよ。」と本音を漏らします。妹の愛情を感じ、涙がこみ上げてくる寅さんは、ただ「そうかい、さくらすまねぇ」のことばを残して旅立ちます。 放浪者の寅さんと、定住者であるさくらは、それぞれ別の世界を生きているのですが、お互いを思いやる気持ちで、繋がっているのです。「しょうがない兄貴だな」と言いながらも、さくらは寅さんのことを一番に考え、寅さんは故郷のさくらのことを考えながら、今日も旅を続けているのです。 × × 誤字脱字写し間違いあります。 |