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こういうことでしたらアタシにお任せ下さい。 第24作『男はつらいよ 寅次郎春の夢』から 寅さんは、見て見ぬ振りができません。意中のマドンナの悩みには、前後の見境なく行動に出ることもしばしばです。その頼もしさは、彼女たちならずとも見ていて、気持ちがいいです。 「あっしにできることだったら」。この気持ちは、「無法松の一生」の富島松五郎の吉岡大尉夫人への「献身愛」と同根のものです。寅さんの「お任せ下さい」は大抵うまくいかないのですが、珍しく成功したのが第24作『寅次郎春の夢』でした。 娘が英語教室を開いているアメリカ帰りの高井圭子(香川京子)のもとを訪ねた寅さん。縁側で話をしていると、教室の増築工事の大工さんが、なかなか来てくれないとの悩みを聞きます。そこで大工の棟梁を見た寅さん「こうゆうことでしたら」と立ち上がります。 圭子の仕事である翻訳の手伝いはできないけど、これなら朝飯前と言わんばかりです。それもそのはず、棟梁は寅さんの小学校からの悪ガキ仲間の茂でした。 演じるのは、クレイジーキャッツの犬塚弘さん。山田洋次監督とは、1964年の『馬鹿まるだし』以来の付き合いです。渥美さんとは、57年に日劇で初共演以来の昔なじみ。東京新聞・中日新聞で連載させて頂いた「最後のクレイジー犬塚弘 アホンダラ 一代、ここにあり!」(講談社)の取材では、犬塚さんから山田監督や渥美さんの知られざるエピソードをたくさん伺いました。 「寅さんが学校時代に席順を争った仲」の茂を演じたときは、リハーサルで渥美さんとやりとりをしている段階から、山田監督が笑いっぱなしだったそうです。寅さんは、幼なじみの弱みを握っているものだから強気です。追いかけられた犬塚さんが、工事中の屋根に登ると、寅さんがはしごを外す。犬塚さんが屋根からぶら下がってバタバタする。 これはまさしくスラップスティック・コメディーの味わいです。映画館は大きな笑いに包まれました。犬塚さんは警官やタクシーの運転手、旅館の主(あるじ)などさまざまな役を演じましたが、この棟梁役は第28作『寅次郎紙風船』に再び登場します。渥美さんクレイジーキャッツの昔からの喜劇共演あればこそです。 × × 誤字脱字写し間違いあります。 |