〈特別篇〉寅さんの“家族の”ことば・おいちゃんのことば おい、まくら、さくら取ってくれ。 第8作『男はつらいよ寅次郎恋歌』から 帝釈天参道で老舗の団子屋「とらや」を経営する車竜造は、江戸時代から数えて六代目と第6作『純情篇』の劇中のテレビ番組「ふるさとの川 江戸川」で紹介されています。おいちゃんは、寅さんとさくらの父・車平造の弟で、平造の没後「とらや」主人として店を切り盛りしてきました。 第1作でおいちゃんを演じたのが、ベテランのコメディアン、森川信さん。戦前大阪で「森川信一座」を結成して大人気を博し、戦後は映画やテレビだ活躍された方です。 森川さんはテレビ版「男はつらいよ」でもおいちゃんを演じており、渥美清さんとの絶妙なコンビネーションは、そのまま映画版へと受け継がれました。 寅さんの行状にあきれ果てた森川おいちゃんが、声にならない声で「ばかだねぇ」とささやくと、映画館は爆笑に包まれました。「ああ、いやだ」と嘆く姿がまたおかしいのです。「おい、まくら、さくら取ってくれ」は定番の笑いとなりました。本当は「さくら、まくら取ってくれ」と言うべきところを、リハーサルでまくらとさくらと言い間違えてしまい、山田監督が「それで行きましょう」と採用したそうです。 森川信さんは第8作『寅次郎恋歌』出演後に急逝、第9作『柴又慕情』から新劇出身の松村達雄さんが二代目おいちゃんに抜擢されました。インテリ役が多い松村さんでしたが、人が良くて少しおっちょこちょいの下町のおいちゃん役もまた絶品で、第13作『寅次郎恋やつれ』まで演じました。その後も松村さんは、第39作『寅次郎物語』の医師役まで、様々な役でシリーズに登場されています。 そして第14作『寅次郎子守唄』から三代目おいちゃんを演じたのが、劇団民藝の下條正巳さん。生真面目で頑固な商店主、という、下條さんのイメージを活かしたおいちゃん像となりました。下條おいちゃんと家業も継がず放浪を続けている寅さんのコンビも中期からのシリーズの味わいです。 歴代のおいちゃんと寅さんのやりとりもまた、自分の親戚を見ているような気分にさせてくけるのです。 × × 誤字脱字写し間違いあります。 |