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〈特別篇〉寅さんの“家族の”ことば・博のことば つまり、兄さんの言いたい事は、 平凡な人間の営みの中にこそ、幸せがあるとでも言うのかなぁ。 第8作『男はつらいよ 寅次郎恋歌』から 第1作『男はつらいよ』で、裏の印刷工場に勤める諏訪博(前田吟)が、さくらに一目惚れしてから三年。寅さんがその橋渡しを買って出ますが、それがうまく行かなかったと思い込んだ博は、工場を辞めて、北海道に帰ろうとします。三年間の恋慕を告白した博は「僕は出て行きますけど、さくらさん幸せになってください」と立ち去ります。 その気持ちをさくらが受け止め、二人はゴールインすることになります。それから満男が生まれ、大学を卒業し、就職するまでの歳月が流れて行きます。「男はつらいよ」シリーズは、博とさくら夫婦が歩んできた26年間の物語でもあります。 博といえば、寅さんが「手前(てめえ)さしずめインテリだな」と評したように、町工場勤めをしながらも、その視野を広く社会に向けて、常に時代を批評する、生活者でもあります。寅さんの思いが、茶の間の家族に伝わりにくい時も、的確なことばで、助け舟を出してくれるのです。 第8作『寅次郎恋歌』の「りんどうの花」のアリアのときも「つまり、兄さんの言いたい事は、平凡な人間の営みの中にこそ、幸せがあるとでも言うのかぁ」と、寅さんの言いたいことを、ときにはそれ以上にわかりやすく解説してくれます。 博を演じた前田吟さんは、俳優座の若手で、山田監督脚本の「泣いてたまるか」最終回「男はつらい」(1968年)で渥美清さんと共演。映画『ドレイ工場』(68年)での労働者役が認められ、博役に抜擢されました。第8作『寅次郎恋歌』で、家庭を顧みなかった父との確執、亡母への思慕が濃密に描かれています。前田吟さんによれば、ご自身の幼い日の苦労話を、山田監督に話したことがあり、それが反映されているのではないかと仰っていました。 父親に反発して家出をして、グレていた博は、タコ社長の世話で印刷工となり、さくらと結婚。その後の幸福な姿はシリーズの中で描かれている通りです。茶の間で博が「つまり、兄さんの言いたい事は」と助け舟を出すと、何とも言えない幸福な気持ちになるのは、ここにも「りんどうの花」が咲いているからなのです。 × × 誤字脱字写し間違いあります。 |