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暑中御(おん)見舞い申し上げます。 私、反省の日々を過ごしつつ、 とらやの御繁栄を心より祈っております。 第38作『男はつらいよ 知床慕情』から 寅さんは筆まめです。お正月に文化放送「続・みんなの寅さん」で、寅さんからの年賀状を特集してご紹介したことがあります。毎回、寅さんは、マドンナや、出会った人々への季節のあいさつを一枚のハガキにしたためています。 渡世の義理やあいさつを欠いては、寅さんの世界では生きていくことができません。そこから身に付いた礼儀なのでしょうが、通り一遍のあいさつではなく、寅さんの心がこもっていることを、映画を観るたびに感じます。 第1作『男はつらいよ』で、初代マドンナで、御前様の娘・坪内冬子(光本幸子)にあてたハガキです。「故郷柴又を出しより一年余り、思えば月日のたつのは早きもの。風の便りに妹さくら出産の知らせを聞き、兄として喜びこれに勝るもの無く、愚かしき妹なれど私のただ一人の肉親なれば、今後ともお引き立てのほどお願い申し上げます」。 失恋の傷も癒え、幸福な結婚をした幼なじみ冬子に、妹・さくらの近況を聞いた喜びを伝え、さくらのことを頼む文面です。ハチャメチャでパワフルな初期の寅さんの、妹を気づかう気持ち、冬子との縁を大切にしている想いが、ひしひしと伝わってきます。 ぼくは子供の頃、寅さんの年賀状を参考にしていました。「思い起こせば恥ずかしきことの数々」とは、小学生の文体ではありませんが、かえってそれで寅さんのような気分になりました。 第10作『寅次郎夢枕』で、幼なじみの志村千代(八千草薫)から「寅ちゃんなら」と愛の告白を受けたときに、うろたえてしまい、結果失恋となったことがあります。 その後、年賀状に「お千代坊にもご放念下されたく、向後(きょうこう)万端ひれ伏して、御願い申し上げます。末筆ながら、あなた様の幸せを遠い他国の空からお祈り申しております」と書いています。相手の幸せを願うことが寅さんの幸福であることが、この文面からもうかがえます。 手紙の達人の寅さんですが、難があるとすれば、決して上手とはいえない、金釘流(かなくぎりゅう)の文字です。実に味わいがある書体ですが、シリーズ初期は、倍賞千恵子さんが左手で書いていたそうです。 × × 誤字脱字写し間違いあります。 |