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第二章 気づかせること 損得は考えない 物事を決断する時に、ひとつの物差しにしていたことがある。それは、自分の損得は考えないということだ。 2005年からは日本プロ野球選手会の選手会長を務めたが、その時にも腹をくくって引き受けたという部分が大きかった。 少し前から私が候補に挙がっているという噂があり、前任者の古田敦也さんに直接確認したところ、「多分、お前に話がいくと思うが、自分の経験からプラスになることはたくさんある。でも嫌だったら、断ればいいから」と言われた。 実際に候補者は何人かいたが、積極的にやりたいという人間はいなかった。しかし、球界再編問題で古田さんが頑張ってきて、選手会の地位も向上していた。そんな時に、その次の会長を多数決で決めるというのは、褒められたものではない。 それよりは、誰かが「自分がやる」という意思表示をしたほうが、選手会としても今後につながる。もちろん、野球以外の仕事が増えるわけである。損得勘定をすれば負担になることは分かっていたが、引き受ける覚悟を固めたのである。 就任した当初は普段からネクタイを締めている重役の方々と、きちんと話ができるのかが不安だった。ベテランになったとはいえ、これまで野球界しか経験していなかった。いわば野球馬鹿の私には学もなければ、本もまともに読んだ経験がなかったのである。 ただ、やはり人に任せるというのは嫌だったので、担当弁護士に任せるのではなく、事務折衝には毎回出るよう心がけた。フリーエージェント(FA)権、ドラフト改革と交渉事は多かったが、誠意を持って話をすれば、相手も分かってくれるというのが実感だった。 交渉事を経験して分かったのは、やはり、選手だけの権利を訴えても、交渉はまとまらないということだった。「ここは機構側に譲るので、ここを通してください」という風に交渉すれば、自分たちが欲しい権利も100%は無理でも60%は得ることができる。人と人が顔を合わせて気持ちを込めて交渉するのは、大事なことだと学んだ。 また、選手会の活動資金が足りないという話だったので、それまで慣例としてあった選手の「お車代」を止めた。それまでは選手総会なりに出席すると「お車代」として一万円が支給されていたのだが自分たちのために出席する総会で「お車代」が出るのはおかしい。 「みんな、いいよな?」 選手会総会でのその一言で、廃止にしたのだ。 例えば、「これは明らかに損だな」と思うことでも、そこで自分がその役回りをかぶれば、後々に経験として返ってくることがある。損して得取れではないが、他の人間がかぶれないのだったら、自分が泥をかぶろうという意識があった。 「あいつはこすい(せこい)ヤツだな」 野球ではこすいことをずいぶんしてきたが、普段の生活のなかでそう思われるのだけは、性格的に許せなかったのだ。 × × 誤字脱字写し間違いあります。 |