第三章 守る意識 洞察力をいかに鍛えるか 内野手は視界を広く保たなければいけない。 高いバウンドのゴロに対して、どこまで突っ込んでいって捕ればいいかとよく聞かれるが、結局はランナーが見えているかどうかにかかっていると思う。 ランナーなしの状況だとすれば、足が速いバッターなのか、遅いバッターなのか。足が遅いバッターなら、何も無理に前進して捕ることはない。もうひとつバウンドを待って捕ってから投げても、楽にアウトにすることができる。 2013年の交流戦で、楽天の松井稼頭央と打者走者が見えるかどうかの話をする機会があった。 クリネックススタジアム宮城(現・楽天Koboスタジアム宮城)の試合で、ヤクルトのらスティングス・ミレッジがショートゴロを打った瞬間、足を滑らせてバッターボックスで転んでしまった。ショートを守っていた松井稼頭央はグラブに当てたボールを弾いてしまい、送球をあきらめていたのだが、ボールを拾った時にミレッジの走塁が遅れているのを見て、慌てて一塁に投げた。結果はセーフだった。 私がショートを守っていた感覚からすれば、目でボールを追いながらも「あ、打者が転んだ」と気づく。翌日、PL学園の後輩でもある彼にその話をすると、驚いた顔をされた。 「宮本さん、嘘でしょう。(打者走者が)見えるわけがないじゃないですか」 「いや、見えるだろう」 目の前のボールを追っていても、前方は視界に入るはずである。目でボールを追いかけていても、打者走者の進み具合は分かる。打者が一生懸命に走っていなかったら、ゆっくり捕球してもいいのだという話をしたのだが、松井は半信半疑のような表情だった。 すると、今度は神宮での楽天戦で、ヤクルトのバッターが詰まって、高いバウンドの打球を捕った。さほど足の速くない打者だったのだが、また松井稼頭央が前に出てきて弾いてエラーにしてしまった。翌日、松井に「この間、言っただろ」と言うと「絶対に言われると思ったんです」と苦笑いしていた。 打者走者が見えるかどうかには、個人差があるようだ。松井とのやり取りの後にヤクルトの内野手にも聞いてみたのだが、打球を追いながら打者の動きが見えるのが、ごくわずかだったのには驚いた。 ショートの時には特に視界を広く保とうと意識していた。今は試合中の伝達行為が禁止されたが、以前はサードコーチの動きにも目を配らなければいけなかった。セカンドランナーがちょっとした動きを見せた時も「今、何か変な動きをしたな」というのが、視界の隅に見えていないといけない。視界を広く持つというのは、とても大事なことだ。 「この選手は、何を考えているのだろう」 「今の動きは、どんな心理からだろう」 小さなことにでも興味を持つのは、内野手にとって必要なことだ。例えば脱いだ靴の並べ方ひとつで、その選手の性格が透けて見えることがある。きちんとそろえて玄関の端に置く人間もいれば、脱ぎっぱなしの人間もいる。 人間を観察するのが好きなので、「この選手はこんなところがあるんだ」というのを、普段の生活から考えるようにしていた。 × × 誤字脱字写し間違いあります。 |