中西太さん懐かしいお名前ですね。
私の子供のころ大活躍されてた方ですね。
あのころの西鉄はすごかったですね。
宮本選手はやはりすごいですね。
素直に自分のものにしていくことが、だから頑張れてきたのですね。
そして謙虚さですね。
ますますこのコーナーが楽しみです。
第四章 攻める意識 詰まることを恥ずかしがらない プロ野球で生きる道を示してくれたのが入団時の野村監督なら、打撃の術を示してくれたのが中西太さんだった。 プロ一年目の打率は・220、二年目は・273。115試合出場した三年目は・282をマークしたが、そう甘くないのがプロの世界だ。四年目は・258、五年目は・248と打率が大きく下がっていった。 守備力が重視される遊撃を守っていたとはいえ・250前後というのは決して褒められた数字ではない。チームには毎年、ドラフトで若い選手が入ってくる。守りでは負けない自信があったが、自分より打てる選手が出てくれば、ポジションを奪われる可能性があった。30歳を前にして「このまま終わってしまう」という危機感が強くなっていった。 転機となったのは、五年目を終えた1999年に宮崎県西都市で行われた秋季キャンプだった。野村監督から引き継いだ若松監督が、臨時コーチとして招いた中西太さんに「宮本の打撃を見てやってください」と私の打撃指導を頼んでくれた。 高松第一高校から西鉄に進み、豪快な打撃で「怪童」と呼ばれた中西さんは首位打者を二回、本塁打王五回、打点王を三回獲得した伝説の打者である。遊撃手がジャンプしたライナー性の打球がそのまま伸びてスタンドに入ったという逸話もある中西さんの打撃理論は、下半身を重視してボールを呼び込み、強くたたくというものだった。 「しっかり呼び込んで打てば、打球は飛ぶ。詰まることを恥ずかしがるな」 中西さんのこの考え方が、私を変えてくれた。 私のような非力な選手ほど、弱い打球を打ちたくないものである。詰まった打球を打てば、相手や味方ベンチにまた非力だと思われてしまうと考えるからだ。当然、詰まりたくないから、ミートポイントを前にしようとする。ポイントを前にすれば、右打者なら左側の壁(左打者なら右側の壁)が崩れる。左側の壁が崩れれば、重心が投手側に流れて、変化球のボール球を振ってしまうという悪循環にはまってしまっていた。 詰まることを恥ずかしがらないというのは、それとは逆転の発想だった。バッターというのは元来、詰まりたくないという考えが染みついている。頭では分かっていても、なかなかその考え方を変えるのは難しいものだ。 だが、指導を受けたタイミングも私にとっては幸いだった。このままでは終わ ってしまうという危機感を抱いていた私は「この人を信じてやってみよう」と素直に思うことができた。 それからは、アウトコースの低めを強く打つということを反復練習していった。ショートゲームといって、マウンドより近い距離から投げるボールを打ち返す。その繰り返しだった。 アウトコースの低めさえパチンと強い打球で打ち返すことができるようになれば、その他のコースは応用で対応できる。アウトコースの低めよりは身体に近いのだから、簡単に打てるはずだという考え方だった。 素振りをするのもすべてアウトコースの低めを意識して振った。連日、最後まで居残って練習した。シーズンが始まってからも、室内練習場に一番乗りして打ち込んだ。 中西さんは、その練習に可能な限り付き合ってくれた。当時すでに年齢は60代後半に差しかかっていたが、こちらが音を上げるまで投げ続けてくれた。 「ワシも君らに教えてもらっとるんや」 西鉄、日本ハム、阪神の監督まで務めた方が、そう言って練習に付き合ってくれた。だから、この人についていこうと強く信じることができたのだろう。翌年の2000年には二番に定着し、打率・300をマークすることができた。 「間違った努力」 野村監督がよく言っていた言葉だが、それまでの私は間違った努力なんてないと思っていた。例えば、間違った方法で素振りをしても、数をこなすことで振る力は身につくはずだからだ。 だが、間違った方法で努力を続けると、間違った技術がクセとなって身についてしまう。それは場合によっては、努力をしないよりも悪い方向に導くことがある。正しい努力を積み重ねることが、技術の向上につながる。中西さんから指導を受けるなかで、間違った努力はあるのだと気づかされていった。 これは守備についてもいえることだ。「ゴロの打球はバウンドのどこで捕ったらいいか」聞かれることが多いなだが、私は「ボールの上がり際」、つまりはショートバウンドで捕るのがいいとずっと教わってきた。バウンドの上がり際で捕るためにはその分、足を使って移動しなければいけない。上がり際はイレギュラーに対応しやすく、グラブを立てて使うことができるし、目とボールの間にグラブが入るため、操作しやすい。 ところが、最近の若い選手に聞いてみると「ボールの落ち際」と答える選手が想像以上に多くて驚いてしまった。落ち際ではボールを目で追って頭が上下してしまうし、グラブが横に寝てしまう。目とボールの間にグラブが入らないため、思わぬミスが多くなってしまう。それでは、いくら練習してもうまくならないはずである。 間違った努力は、確かにある。正しい努力を積み重ねなければ、技術は身につかないのである。 × × 誤字脱字写し間違いあります。 |