第三章 守る意識 守備隊形をいかに動かすか 打撃は三割を超えると、一流と言われる。ヒットを打たない残りの七割は、失敗が許されるわけだ。これほど成功率の少ないスポーツは少ないはずだ。 一方で、守備は100%の成功率が求められる。さらに、相手打者や試合の状況によっては、守備隊形や守備位置を変えることが必要になる。その駆け引きや求められる質の高さに、守備の魅力を感じてきた。 ポジショニングに関しては、まずはデータを重視していた。プロ野球の場合はスコアラーが打球方向別のデータを作成してくれる。投手と打者の力関係で、変化球ならこちら側、真っ直ぐ系ならあちら側というデータをもとに、守備位置を決める。 50回打って1回しか来ない方向であれば、確率のうえで備える必要はない。もし来てしまっても、それはしょうがないと割り切ることも必要になる。 ランナーの動きや、相手チームの作戦がどうかなど、いくつかのパターンを頭に入れておかないとスムーズなプレーはできない。もちろん、そうしたデータが土台になるのだが、バッターの動きやその日の調子を感じて、修正を加えることがあった。データを超えた感性が必要となる時があるからだ。 例えば、引っ張り傾向の強い右打者の場合、基本的には三遊間に寄るが、バッターが右方向を意識してスイングしていると感じたら、一、二歩戻るといった具合だ。 逆に一球一球で狙い球や、打球方向の意識を変える打者は守りずらい。巨人の元木大介は引っ張った後に押っつけたりと、守る側にとっては手を焼く存在だった。 最も極端な守備隊形を取ったのは、巨人やヤンキースなどで活躍した松井秀喜だった。右方向への打球が多く、ショートがほぼピッチャーの真後ろの位置を守っていた。それでも、松井はセーフティーバンドをしたり、ちょこんと合わせてレフト前に打つようなことを一切しなかった。 「シフトの間を抜くんだ」 「野手の上を打つんだ」 現役時代の王貞治さんがそうだったと聞くが、守備シフトの穴を突くのではなく、シフトを上回る打撃をしようとするのを、守っていても感じた。 最近の大リーグでは極端な守備隊形を目にすることが多くなった。左打者で引っ張り専門のバッターの場合、三塁手が一、二塁間を守る時もあるという。ただ、国際大会を戦った経験として、細かい守備隊形だったり、こういう時はこうやって守るんだという戦術は、日本のほうがはるかに長けていると考えている。 × × 誤字脱字写し間違いあります。 |