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2013/12/21 朝刊 大相撲九州場所14日目で稀勢の里(左)が上手投げで白鵬を破る=11月23日、福岡国際センターで 横綱白鵬とまともにぶつかって胸を合わせた。先に右上手を奪い、大関稀勢の里が前へ。土俵際で横綱の左下手投げに崩れかけながらも、上手投げで裏返した。九州場所14日目(11月23日)に無傷の白鵬を倒した真っ向勝負。一人の観客が始めた万歳があっという間に福岡国際センターに広まっていった。 福岡の座布団は連結され、飛ばせない。歓喜の表現手段が万歳になったとはいえ、敗者へのいたわりが美徳の大相撲では異例の出来事だった。 万歳が何を意味するかは明らか。日本人力士の奮起を心底、待ち望んでいる。ファンの喜びを一身に受けた稀勢の里は「相撲を取っていて良かった」とまで言った。 この1年は相も変わらず、白鵬の強さが目立った。優勝回数を歴代3位の27回まで伸ばし、千代の富士の31回、大鵬の32回も視界に入った。感心はしても、驚きはない。むしろ強すぎるからこそ湧き起こった万歳に驚いた。 今年からご当地の九州場所を担当した浅香山親方(元大関魁皇)は「外国人が悪いのでなく、日本人がもっと頑張れ、ということ。どこへ行っても遠藤への期待と稀勢の里の横綱昇進の待望論があった」と話す。遠藤の躍進は道半ば。今、主役になりえる日本人は稀勢の里だけといっていい。 18歳で幕内に駆け上がり、早成の看板を背負ったが、そう器用ではなく、実は晩成型なのだと思う。賜杯とは「力に変わるもの。それがあるからきつい稽古も我慢できる」と実直に話す27歳。10場所連続で2桁勝利を挙げ、日本生まれの力士が8年遠ざかる賜杯へ、11年不在の横綱へ、少しずつ近づいてはいる。 駄目横綱のレッテルを貼られかけた日馬富士は逆転優勝で1年を締めくくった。風当たりが強くなっても「僕はこれで終わる相撲取りじゃない」とくじけなかった。この己を信じるずぶとさを稀勢の里が身に付けたら、来年こそ夢が現実となる。 (高橋広史) |