河北新報 2013年1月12日付 朝刊(東京) 【津波で犠牲の母、娘らへ「タイムレター」】 東日本大震災の津波で亡くなった母親の思いが、絵本に生まれ変わった。宮城県旦理町の小野由美子さん=当時(47)=が、生前に3人の子ども宛てに書いた「タイムレター」が被災後に届いたのがきっかけ。愛と感謝にあふれた手紙は絵本「かあさんのこもりうた」(金の星社)となり、悲しみに沈んだ家族に光を届けている。 反抗期でけんか 「♪だいすき だいすき だいすきよ がんばりやのおねえちゃんいつもいつでも みているよ」。絵本で「かあさんぐま」は子守歌を歌う。「おねえちゃん」のモデルとなったのは、由美子さんの高校1年の長女、好美(このみ)さん(16)だ。 「反抗期で毎日けんかばかり。本当は褒めてほしかった。仲良くなれそうな時に逝かれちゃった」母の代わりに台所に立ち、外で物音がするたびに「お母さん、帰ってきたかな」。そんな日々が続いていた一昨年9月、手紙が届いた。由美子さんからだった。 由美子さんは、現在小学4年の次女、望美さん(9)の入学時に、ランドセル会社が実施したタイムレター事業に、家族に内緒で応募していた。わが子への手紙が1000日後に届けられる仕組み。好美さんと高校3年の長男勝利さん(18)への手紙も同封していた。 好美さん宛ての便箋には丸文字で「口ごたえをしながらもいっぱい手伝ってくれて、お母さんは・とても、とても、・感謝していました」。好美さんは「気持ちを理解してくれていた。この手紙は宝物だな」。 望美さんへは「げんきに学校にいってくれるだけで、おかあさんはとてもあんしんしていました」。震災後、学校を休んだり、授業中に泣いたりしていた望美さんは「お母さんの字が見られてびっくりした」。 勝利さんへは「妹たちにやさしいお兄ちゃんなっているように」と願いが込められていた。 夫の好信さん(52)「親子ともに精神的に追い込まれていた。女房の気持ちが分かって救われた」。 一番の形見 自分 母の思いは連鎖する。金の星社の伊藤美季さん(41)は自身も2児の母で「母と子の結びつきを伝えたい」と絵本化を考えた。同じく二児の母の絵本作家こんのひとみさんは「由美子さんの気持ちを空からたぐり寄せて」ペンを握った。「母の愛情は時間も場所も超える。どんな子供たちにも、あなたを大切に思う気持ちが必ずあると伝えたい」 絵本では、小野家と同じ5人家族のクマの一家が嵐に遭い、かあさんぐまが行方不明に。残された4匹に、夜空からかあさんぐものいつもの子守歌「♪だいすき だいすき・・・」が―。読んだ好美さんは「強くて優しい母だったと誇りに思う。一番の形見は私たちだと思うとうれしい」と笑顔を見せた。 (東京新聞) ○○〈読者投稿〉 東日本大震災から早2年余り、形あるものの復興は目に見える。徐々にではあるが確実に前に向かっていると思う。 一方、心の復興は目に見えない。立ち直りつつある人。立ちつくし、時計が止まったままの人。逆に、時とともにますます、悲しみらつらさを募らせている人もいることだろう。 そんな中、時を超えて、母親の強く深い愛情が、のこされた家族の心を救い、さらに同じく子を持つ母親たちの心を捉え、より多くの人の心に響く、絵本という形になって輝き始めた。 母親の深く強い愛情が、その子供たち、家族だけでなく、被災した多くの人々、さらに親であったり、子である多くの日本人に、深い感動を広げてくれている。 「タイムレター」という魔法が導いてくれた、母の思いの連鎖という奇跡。 世の母親たちの、子を思う深い愛情の強さを再認識する素晴らしい話だと思った。 酒井義宏さん 55歳 宮城県 × × 誤字脱字写し間違いあります。 |