人間はなあ、額に汗して、油にまみれて働かにゃあ、 いけないんだよ。 第5作『男はつらいよ 望郷篇』から 寅さんは「反省」の人でもあります。自分の行い、これまでのことを振返り、悔い改めようとします。そのきっかけは、さくらのことばや、旅先で出会った人の影響だったりします。 額に汗して働くことは、粋でいなせな寅さんの生き方とは正反対です。「渡世人」を気取り、ときには「遊び人」と呼ばれて、まんざらではありません。額に汗して懸命に働く「労働者」と対極にあるのが、寅さんの矜持でもあります。 ところが寅さんが、その労働者に憧れたことがあります。第5作『望郷篇』で、かつて世話になった北海道のテキ屋の政吉親分(木田三千雄)だ危篤となり、寅さんに「息子に一目会いたい」と頼みます。 寅さんは、蒸気機関車の機関士をしている、その息子・石田澄雄(松山省二)を訪ねますが、彼は父親に会いたくないと断ります。身勝手な父親の生き方に反発して、彼は堅気の鉄道マンになっているのです。 その青年の身の上話を聞いた寅さん、浮き草稼業にむなしさを覚えて、一念発起、額に汗して油まみれになって働く決意をします。 さて、その寅さんですが、タコ社長の印刷工場に勤めるも半日でクビ。結局は、あちこちで断られ、たどり着いたのは千葉県の浦安市のお豆腐屋さんです。 額に汗して、油揚げを揚げる寅さんはイキイキしています。藤島桓夫さんの「月の法善寺横丁」を粋に歌いながら豆腐を売り歩く寅さん。働くことのモチベーションは、実は、お豆腐屋さんの一人娘・三浦節子(長山藍子)だったということがわかり、それからは、おなじみの展開となります。 それにしても、働く決意をした寅さんは大真面目です。「男はつらいよ」は、寅さんという「放浪者」と、さくらたち「定住者」による「放浪者と定住者の物語」です。 定住者は寅さんのように、自由気ままに生きて見たいと思います。放浪者は堅気になって地道な暮らしをしたいと願います。その立場や考えの相違がときには笑いとなり、お互いに憧れる気持ちがロマンチシズムになる。それがこのシリーズの魅力です。 × × 誤字脱字写し間違いあります。 |