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俺はもう二度と帰らねえよ。 いつでも帰れるところがあると思うからいけねえんだ。 第6作『男はつらいよ 純情篇』から 寅さんはいつも旅先で故郷を想います。その「望郷の念」で、矢も盾もたまらず柴又に帰ってくるのです。 第6作『男はつらいよ 純情篇』で、長崎港で出会った子連れの女性絹代・(宮本信子)の宿賃を世話した寅さん。駆け落ちして以来、一度も故郷の福江島に帰っていないという絹代に付き添って、森繁久彌さんふんする父・千造に会います。 そこで「故郷はどこかね?」と訊かれた寅さんは柴又のこと、おいちゃん、おばちゃんのこと、さくら夫婦の話をしているうち、柴又に帰りたくなります。 しかし寅さんは「俺はもう二度と帰らねえよ」と最初に家出したときの気持ちを忘れていないのです。 「男はつらいよ」は、家族を想うこと、故郷を想うことの物語でもあります。ふらりと旅に出た寅さんのなかには、帰郷をためらう気持ちもあるのです。帰りたいけど、帰れない。そんな葛藤が見え隠れします。 さて、ぼくの年下の友人に、寅さん流に言えば舎弟になりますが、小学五年生の少年の吉野秀尋(ほつね)君がいます。小学一年生のとき、テレビ放映された第22作『噂の寅次郎』で寅さんの世界に触れて以来、彼の人生には「男はつらいよ」がなくてはならないものになりました。 彼は、帽子に背広、ダボシャツに雪駄の寅さんスタイルで、ときおりふらりと柴又に現れます。彼にとってはコスプレではなく、寅さんの心に寄り添うために、その恰好をしているのです。 彼と寅さん談義をしていて「一番好きな作品は?」と尋ねました。彼は迷わず「『純情篇』です」。その理由は「家族を想う話だから」と明確に答えてくれました。寅さんは旅先でさくらを想い、さくらは柴又で寅さんを想う。そこに心動かされると自分の言葉で語る秀尋君は本物のファンです。 「いつでも帰れるところがあると思うからいけねえんだ」と葛藤する寅さんの望郷の念は、家族への尽きせぬ想いでもあることが、この映画に触れる少年の心にも届く、これがこのシリーズの素晴らしさなのです。 × × 誤字脱字写し間違いあります。 |