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上等上等、温かい味噌汁さえありゃ十分よ。 後は御新香、海苔、タラコひと腹。ね、カラシの効いた納豆。 これにはね、生ねぎ細かく刻んでたっぷり入れてくれよ。 第5作『男はつらいよ 望郷篇』から これは寅さんの「理想の朝ご飯」です。この後にこう続きます。「あとは塩昆布に生卵でも添えてくれりゃもう、おばちゃん何にもいらねぇな、うん」。これだけあれば、寅さんでなくても、誰も文句はありません。 旅先で偏食気味の寅さんの昼食は、いつもうどんやラーメンなどです。麺類が好き、ということもあるでしょうが、安価で手軽、つまり食生活にはあまりこだわっていないようです。 しかも麺類にはつきもののナルト巻きは大嫌い。その理由は「あのウズを見ると目が回るから」とか。そんな寅さんですが、久しぶりに柴又に帰ってくると、何かにつけて手を掛けてくれるおばちゃんには、ついわがままを言ってしまいます。 第7作『奮闘篇』で、産みの母親・お菊(ミヤコ蝶々)が上京してきたときも寅さんは「おれの母親はね、おばちゃん、あんただよ」と、おばちゃん想いの一面を見せます。 だからおばちゃんは、寅さんが帰ってくると、腕によりをかけてごちそうを作ります。「がんもどきの煮たの」「お芋の煮っ転がし」など、豪勢なものではありませんが、手料理に腕を振るいます。「さあ、何かおいしいものでも作ってあげようか」と大張り切りです。 第29作『寅次郎あじさいの恋』で、恋わずらいで寝込んだ寅さんがリクエストしたのが「フキの煮付けと、白身のお魚と、大根おろしと梅干し」です。おばちゃんは、あきれながらも手を掛けてくれます。 映画を観ていると、まるで自分の親戚のように思えるのは、おばちゃんの寅さんへの温かい思いが、こうした場面からあふれ出すからです。しかも、寅さんのわがままがエスカレートするおかしさが、このシリーズの笑いでもあります。 第23作『翔んでる寅次郎』で、おばちゃんは、旅暮らしの寅さんを「ぜいたくな男でございまして」と、小暮実千代さんふんするマドンナ・入江ひとみ(桃井かおり)の母親・絹子に言います。「ぜいたくな男」ということばは、決して否定的なものではなく、おばちゃんの寅さんへの愛情にあふれた表現だと、いつも思うのです。 × × 誤字脱字写し間違いあります。 |