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労働者諸君!田舎のご両親は元気かな。 たまには手紙を書けよ。 第34作『男はつらいよ 寅次郎真実一路』から 寅さんの名文句の一つに「労働者諸君!」があります。実家の団子屋の裏手にある。タコ社長の印刷工場・朝日印刷で働く若者たちを、寅さんはこう親しみを込めて呼びます。渥美清さんの晴れやかで、明るい声の「いよ、労働者諸君!」がまたいいのです。 寅さんは額に汗して真面目に働いている人に、憧憬(しょうけい)を抱いています。第5作『望郷篇』では、真面目になろうと一念発起、朝日印刷で働くことを決意します。「♪聞け万国の労働者~」と「メーデー歌」を歌い「今日から僕は君たちの仲間だぞ。共に語らい、共に働こう」と、工場へさっそうと向かいます。 それがおかしいのは、寅さんがおよそ労働とは無縁だということを、観客もわかっているからだのです。 まだシリーズが作られていた頃、山田洋次監督から「形式主義と寅さんの取り合わせは非常に面白い」と伺ったことがあります。「寅さんの『労働者諸君!』が面白いのは、もともと人間に階級があるという考え方を笑っているから」と山田監督。寅さんの「青年!」がおかしいのは「寅さんは、本当は青年を尊敬していて、大きな期待を寄せているんだ」とも話してくれました。 「労働者諸君!」「青年!」とあの名調子で寅さんに言われると、なんだか頑張りたくなってしまうから不思議です。 実はこの「労働者諸君」というフレーズは、テレビ版「男はつらいよ」や第1作の脚本を手がけ、第3作『フーテンの寅』を演出した森崎東監督の、義理のお兄さんの言い回しがルーツにあるそうです。 そのおかしさを、渥美清さんが体現し、山田監督の演出により「労働者諸君!」というフレーズに昇華されたのだと、森崎監督から伺いました。 第34作『寅次郎真実一路』で、仕事に疲れたサラリーマンの富永健吉(米倉斉加年)と一杯酌み交わした寅さんは、健吉から故郷、鹿児島への想いを聞きます。 それもあって、裏の工場の青年には田舎の両親に「たまには手紙を書けよ」と言うのです。寅さんのこのねぎらいのことばには、懸命に生きる人々への愛情があふれているのです。 × × 誤字脱字写し間違いあります。 |