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風の吹くまま、気の向くままよ。 『男はつらい』各作から 寅さんの旅は自由です。さて、これからどこへ行こうか。その時の風向き次第で、歩き出すのです。暑い時は涼しい北海道へ、寒い季節には温かい九州へと、まるで風に誘われるように、自由気ままの旅の空です。 「風の吹くまま、気の向くままってやつだよ。道の真ん中でよ、こうやって指に唾(つばき)つけるだろ、で、こうやって出すわけだ。風が吹いてきたなって方へ一緒につられて、フワフワフワフワってこう行っちゃうわけだ」(第29作『寅次郎あじさいの恋』)。それが寅さんのポリシーです。 第42作『ぼくの伯父さん』で、及川泉(後藤久美子)の叔母・奥村寿子(檀ふみ)に「これからどちらへ」と聞かれた寅さん。「風のやつが、東から西へ吹いていますんでね。西の方にでも行きますか」。主婦の寿子は、「私もそがん旅がしてみたか」。定住者には、寅さんの「風の吹くまま」の旅は憧れです。「早い話が根無し草のようなもんですからね」と言った寅さんは、「奥さん、幸せになってください」のことばを残して旅立ちます。 16歳で、父親と大げんかして家を飛び出して以来、放浪の旅を続けてきた寅さんは、最初から「風の吹くまま、気の向くまま」だったとは思えません。つらいこと、悲しいこと、やりきれないことがたくさんあったはずです。夜汽車に乗っている寅さんの遠くを見つめる表情に「孤独の影」を感じます。根無し草の自分を省みて、今度こそ所帯を持って「りんどうの花が咲きこぼれる庭先」のある家庭を持ちたいと思ったのは第8作『寅次郎恋歌』でした。 映画で寅さんが旅をするのは、たいてい家族とけんかして、二度と帰らない覚悟をして、家を出た後が多いです。ぼくは、寅さんの旅のシーンが好きです。高羽哲夫キャメラマンが捉えた美しい風景を歩く寅さんの姿。山本直純さんの雄大な音楽。山田洋次監督が紡ぎ出す人とのふれあい。そこに「風」を感じます。 寅さんのなかに、悔しい思いがあったとしても、「風に吹かれて」歩いていくうちに、いつしか消え去ってしまう。「寅さんの旅」は、ぼくたちの、嫌なことも忘れさせてくれるのです。 × × 誤字脱字写し間違いあります。 |